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2023年8月

2023年8月30日 (水)

新たなケアを探して

昨年から僕が民間のNPOの活動に参加するようになりました。
色々な知識による、特に最近の臨床心理学の影響が大きいです。自分が提供しているケアが専門職セクターによる特殊なケアであり、これだけでは世界、せめて自分の関わる人たちのケアもよくならないと分かったからです。
一般病院を辞めたときも緩和ケア病棟を辞めたときも同じことを感じました。専門的なケアを洗練していっても、世界は良くならない。それならと活動の場を変えてきました。でもそこはまだ同じセクターの内部だったのです。
もっとはっきり言います。専門職セクター内のケアと治療を発展させる力、テクノロジーを開発する力は自分にはもうないと分かったとき、自分は誰かの開発した方法をただ、遅延再生するだけと自分の可能性を見切りました。そこに長くいても面白くない。僕でない誰でもできることです。自分の人生をかけるほどではない。
また代替療法、効果が確認できない医療について、専門職セクターの発想で議論しても意味がないと言うことにも気がつきました。そう、これらの医療の提供者は民俗セクターに所属しているのです。民俗セクターの方々に「エビデンス」を語っても意味がありません。それは専門職セクターの中でしか通用しないのです。さらにいうなら、専門職セクターの中の治療を、政策決定者に公金で採用してもらうための道具です。
民間セクターのケアをもっと洗練できないか、今はそこに自分の関心があるのです。そして、民間セクター、民俗セクター、専門セクターのケアは同時に社会に存在し、それぞれは関わり合いながら発展するのです。(僕は民俗セクターのケアにもとても好奇心が沸きます)
暮らしの保健室や、居場所作りに僕が参加するのは、専門職セクターのケアの洗練に飽きてしまったからなのです。でも開業すると仕事を辞めることができないので、自分の活動範囲を拡げているのです。
ふつうの相談
東畑開人、金剛出版、2023
臨床人類学
アーサー・クラインマン、河出書房、2021(復刊!)
クラインマンはあらゆる社会に、人々が心身の不調に対応し、健康を追求するための仕組み(ヘルス・ケア・システム)が備わっているとし、それは以下の三つのセクターから構成されているとした(図4)。つまり、社会的に公認された専門家たち(たとえば、現代日本であれば医者など)による専門職セクター、占い師や拝み屋のようなオルタナティブな専門家たちによる民俗セクター、そして「職業でなく、専門家が動くのでもない、素人の民間文化」であり、「知り合いや隣人、親類、さらに素人の権威者に助言を求める」民間セクターである。言うまでもなく、ふつうの相談0は民間セクターに位置づけられる。p82
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専門職セクターや民俗セクターに問題が持ち込まれるのは、民間セクター内で処理しきれなくなったときである。いくら休んでも体が回復しない、手を尽くしたがどうしても子どもが学校に行けない、理由も分からない。そういうときに、人々は専門家のもとを訪れる。ただし、実のところ、専門家によってなされることの多くは、民間セクターで行われるケアの再起動に過ぎない。薬を処方されたとしても、飲むのは本人であるし、不登校支援の中核は家族や学校においていかにサポートを可能にするかである。心の不調に関して言えば、家族や友人、同僚との間でサポートを得られるようになることが回復の兆しであり、原因であり、そして結果である。p84

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