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2022年3月

2022年3月29日 (火)

「アドバンスケアプラニング」ロボット

ACP(Advance Care Planning)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、 本人を主体に、そのご家族や近しい人、医療・ ケアチームが、繰り返し話し合いを行い、本人による意思決定を支援するプロセスのことです(日本医師会の解説より
まずアドバンスケアプラニングなど、不確実な近い将来に対してどう医療者と患者が向き合うのかとても関心がもたれていることと思います。未来に補助線を引く鮮やかさもありますが、世界を醜悪に閉じ込める愚かさもあります。
私たちが「信念」と思っているものは、案外社会のシステム、枠組みの影響を大きく受けているのです。というよりもシステもそのものの一部として、発想や言葉を自分の脳にインストールされて、信念と勘違いしているといったほうが良いと思います。
丁寧でも「これからのことをお話しさせて頂いてよろしいでしょうか」と患者に話しかける医師に、私は何らかの教育効果は感じますが、その背中にはロボットが見えています。その医師は、もう既に生きている人間ではなく、システムに組み込まれたプログラムされたロボットなのです。
皆様にお伝えしておきます。ご自身の使われている言葉が、自分の信念ではなく、今のシステムのロボットの一つとして喋らされていると思わない限り、世の中は良くなっていきません。どうかそれぞれ奮闘して下さいね。
本編はこちら
【アーカイブ動画視聴】川口有美子×新城拓也「コロナが変える、私たちの現場と思想」『不安の時代に、ケアを叫ぶ』(青土社)刊行記念 4月28日木曜日まで。
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2022年3月22日 (火)

本の帯をどうしてますか?

自分で本を書き出版する好運を得てから、本の装幀や帯について考えてます。新著「不安の時代にケアを叫ぶ」は装幀と帯を青土社の編集者の村上瑠梨子さんが中心に考えてくれました。実は帯と表紙の馴染み方を僕は一番気に入っているんです。どんなに良い本も帯が破れると嫌になるんです。
今回の本の装幀は、水戸部功さんにお願いし、紙質は表紙も帯もサガンGAで、手で触るとエンボス感が分かる質感の紙です。
人は本を読むときに、直ぐに帯を捨てるのか、それとも帯を着けたままで読むのか。帯を外してからまた付け直して本棚に収めるのか。そういうことを人と話したことがほとんどないのですが、自分の本は帯のおさまりが良いんです。
着けていても読むのを邪魔しない帯、大きさと表紙との紙質のコントラストが大切です。とっても好きな歌人の方が、その本の本文でこう書いています。

埋もれない外観を与えよ

文字列の表記にこだわる歌人が、どうして歌集の装幀にはこだわらないのだろうと思うことが多々ある。(中略)どれだけおいしいケーキでも、新聞紙に包まれて置かれていたら買わないだろう。(中略)また、帯文についても同様に、本にとっての強力な武器となる。(天才による凡人のための短歌教室、木下龍也、ナナロク社、p98、2020)

素晴らしい比喩です。でもその本の表紙と帯の相性が今ひとつなのです。読んでいる間に帯が破れてしまう、そして帯を外して読むと、その帯が何の本の帯だったのか分からなくなってしまう。紙の質感、大切です。

皆さんはこの帯と手触りについて、気にしたことありますか?

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2022年3月14日 (月)

ケアの日本語訳は、世話ではありません。配慮です。

昨日は、所属している六甲フィルハーモニー管弦楽団の、定期演奏会でした。2年前に演奏会直前に中止を決めてから2年が経ってました。この間いくつかのオーケストラに参加したのですが、音楽活動や音楽体験の根本的な違いを、知ることになりました。

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音楽活動は、自分の「出番」がきちんとあると思える団体にいないと、自分がそこにいる意味を感じることが出来なくなります。大勢の中の一人として、自分は参加していないけど、自分の楽器と放つ音は確かに参加していると思う状況になります。

終演後も何の感慨もなく、楽屋を出ることになります。仕方がない。自分の「出番」を探せなかったのですから。プレーヤー自身が気持ちを開き、古参のメンバーが、ケアしないとその人の出番は作れません。

長くケアの仕事をしていますが、ケアの日本語訳は、世話ではありません。配慮です。

そして、「出番」を作れると、次に「音楽体験」を味わうことができます。優れた指導者が、音楽の作り出す世界を示し、アイデアを共有し、それぞれのプレーヤーが受け容れることができたとき、新しい音がするのをみんなが同時に体験します。その瞬間、「大きい、小さい」「速い、遅い」「合ってる、合ってない」といった、批評音楽からの脱出ができます。

例えば、新しい服を試着した時に、「明るい、暗い」「青い、赤い」「大きい、小さい」と言われているようなものです。「似合う」「カワイイ」「なんか〇〇みたいでいい」と言われて初めていい気になるものです。自分が音楽のアイデアの一部になっている、大きなコンセプトに自分が巻き込まれている、そういう幸福感が味わいたい、そう思うはずです。決めた音の長さで演奏できた、みんなの息があって、始まりのタイミングが同じだったというのは、本当はくだらない事です。相手の着ている服を「赤い」とか「青い」とか言ってるのと同じです。

自分の出番がある人生は幸運です。さらにそこでの体験の幸福感を、恥ずかしがらずにオープンにできたらと思います。

最近は仕事上でも、自分と同い年とか、さらには年下の方が亡くなりつつある現実に向き合っていると、自分にも可能性という機会が無限にはないことを思い知らされます。昨夜のような、自分の「出番」と、「体験」を得られた時、今までよりもこの感触に深く感謝するようになってきたのです。

あと何回こんな体験ができるのだろうか。

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2022年3月12日 (土)

敗残の兵は何を思うのか

両親は70年代学園紛争の最中、学生運動に参加しながら僕を在学中に産む決断をしました。両親の権力に対抗する考えは、僕の中に確実にインストールされ、いつしか同じような思想を持つようになりました。
「間に合わないかもしれない」自分の活動、生きている間に、自分の望む世界にならないかもしれないという焦燥感から、人はいつしか短気になり、短期の革命を求めます。
医師も例外ではなく、おかしな発言、とんでも発言と言われるものの多くは、世界を二分する思想の革命を起こそうと、私たちに挑みかかって来ます。このコロナ禍に「闇堕ち」と言われた医療者の中にも、革命戦士の敗残を僕は見出します。曖昧さに向き合いすぎると頭の中がぼんやりして、どうしても世界を二分したくなるその気持ちは認知的不協和としてよく知られた人間の心の動きです。僕はこの認知的不協和は、知性や知識の量や質でおこるのではなく、誰でも持っているの脳の思考の癖です。脳が不協和、矛盾した状態に耐えられなくなると、採択しやすい理論に飛びついてしまいます。
今から50年前、僕の生まれた頃、吉野雅邦受刑者がその妻と胎児の殺害に関わりました。その後あさま山荘事件に関わり無期懲役を受けていることは知ってます。しかし同時の裁判長、石丸俊彦さんが「全存在を欠けて償え」と言った背景に、ご自身の経験が含まれていたことは知りませんでした。(NHKクローズアップ現代より
「私の願いは『平凡な万人の平凡な生』です。そのためにどんな弱者一人たりとも死んではならない、命を奪ってはならないということです。天皇ウルトラ信奉者だった私の願いです。『革命』はいかなるイデオロギー、哲学でもってしても、弱者には無用である。このことを私は先の戦争から学びました」
僕もかつては革命戦士を気取って、過激な革命を夢見た事もあります。しかし、今は何百年も先に達成する革命の、ほんの一歩か二歩進めればと、革命を見届ける夢を諦めています。しかし、「訓練中の革命戦士」のままこの先を生きて行きたいと思ってます。
「社会を変え得るのは、決して人々の“怒り”の行動や“勇気ある少数者の突出した行動”などではなく、声を発し得ない民の心の底からの願いであり、祈りなのではないか(中略)人を変え得るのは、力ではなく、本人への愛情を込めた説諭による他ない、と思えるのです。そうです。石丸先生が、自ら身をもって実践されたように」(吉野雅邦)
(訓練中の革命戦士は、ピンクのハート型のケーキセットを食べながらこの記事を書いてます)





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2022年3月11日 (金)

「どんな時も直ぐに診察してほしい」

数年に一度こういう患者や家族が診察室に来ます。
先方「このクリニックが24時間、365日対応と聞いています。もしも私に何かあった時は、いつでも直ぐに対処してくれることを望んでいます」
私「『直ぐに』というのはどの位の時間と考えていますか」
先方「30分以内です」
私「私は、そんなにいつでもあなたのために駆けつけることはできませんよ」
先方「いつもここ(診療所)にいて、ここからなら私の家まで30分以内です」
私「私は、絶えず動き回っています。家に居ることもありますし、別の場所で働いている時もあります。東京にいる時だってあります。いつでも連絡は取れますが、夜中だったら朝まで待ってもらうこともありますし、東京から帰ったら4-5時間かかるでしょう。それが私にとっての『直ぐに』です」
先方「それは24時間365日対応ではないと思います。私の勘違いでした」
私「その通りです。ですから診療を始めるのは止めにしましょう」
このやり取りを通して皆様は何を感じるでしょうか。私は最近どんな相手でも、私を通じて社会の仕組みの中に入ってもらうことを念頭に話しをするようになりました。私の限界を相手に伝えるのではなく、たとえ病気に苦しむ患者であっても、一市民としての規範の中で生きていることを教えるのです。
事務員にも、社会の仕組みの中で、医療活動をしていて、その仕組みを相手に伝えるようにと話しています。診療費を割り引いたり、特定の患者に便宜を図ることはありません。
「弱った自分、困った自分、苦しむ自分のために、医者はいつでも直ぐに行動してくれる」と思う患者の気持ちは理解できます。しかし、医者である私である前に、お互い一市民です。相手は、私の市民としての私権つまり、人間として自分を生きていることの権利を制限していると言うことに気がつかなくてはなりません。
人間同士の信頼関係が築けたら、僕は相手のために時には私生活を制限してでも尽くします。
相手が患者でもそれ以前に人間同士です。診察を受ければ直ぐにできるものではありません。最初から多くを求める方は、どうして自分を信頼たり得る存在といえるのかよく考えてほしい。患者は弱い立場かも知れませんが、まず人間同士の信頼関係を築けなければ、私にはその上に治療関係を作っていくことはできないと思うのです。
私は、開業してから一貫して、診察の前に必ず面接をします。こういう患者、家族は私は診察前に退けます。そして戻ってくることはないので、きっとどなたかが診察し続けているのでしょう。社会の仕組みの中で。

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2022年3月10日 (木)

きみは本当の鎮静を知っているのか

2022年3月6日日曜日の夜に、終末期ケア協会(JTCA)のセミナー「きみは本当の鎮静を知っているのか」を協会の会員の方限定で配信しました。

岩谷 真意 (代表理事、看護師)さんは、前職の社会保険神戸中央病院(現、JCHO神戸中央病院)の緩和ケア病棟で一緒に働いていた同志です。

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2019年に協会の設立と、テキストブックの執筆から始まり、時々事務所に伺って色んなアイデアを話し合ってます。教会は2020年から最初の会員を募り、試験をして、継続的な学びの場を提供する、大変有意義な活動をされてます。

私も全面的に協力して、また時にはアイデアを形にする大切な機会をいただいてます。オンラインセミナーがまだ一般的でなかった、2020年5月から、新型コロナウイルス感染症に関わる現場の戸惑いを共有させていただき、全国の会員、同志に出会うきっかけを得ています。

前回の緊急セミナー「僕らに銃口が向く前に 〜見えない防弾チョッキを着ておこう」では、お互い多くの経験をしてきたのに、かなり緊張し当分立ち上がれないほどのエネルギーを使いました。僕も研修医一年目の最初の学会発表以来の緊張感と集中力で、その日は終わってからも眠れなくなるほどでした。

この時から、事務所の一角のスタジオから二人で配信しています。昨夜は鎮静に関するテーマの話でしたので、二人ともリラックスして話しました。その内容を抜粋します。

・まず耐え難い苦痛をどう人は確信できるのか、人が苦しんでいると分かる時、自分の中でどういう条件があるのかを考えないとと話しました。まだ苦しむ余地があるとか耐え難いとは言えないと思う時何を思うのか。

その場にいる患者、家族、医療者は全て連環した苦痛を感じるはずなんです。その苦痛を感じる時僕らの心では何が起きているのか、その事を考えてほしいと思いました。適応や薬の使い方は、もう確立しているので慣れだけです。方法を語り合うのはもういいので、次はその事をよく考えて下さい。

「最期は苦しまずに死にたい」というのは、何も安楽死を権利として願うという、大きな話ではないと思います。普通に人が願う、小さく個人的なでも大切な願いです。医療者は、大きな話ではなく、小さな願いにどう応えるか真剣に考えて欲しい。その方法が鎮静であるのなら、きちんと身につけて欲しい。

まだこれからも多くのアイデアを協会の皆様とカタチにできるよう、自分自身のアンテナの感度を高めていきたいと思います。また皆様も是非協会の活動にご参加ください。終末期ケア協会の詳細はこちら

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積まれた本と再会しよう

皆さんの歩く速さはどのくらいでしょうか。

そして、皆さんの本を読む速さはどのくらいでしょうか。自分の手持ちの時間を想像しながら、本屋で多くの本を手に取るときどんなことを考えるのでしょうか。

読み終わった後に出会う、少し変わった自分を楽しみにしていることでしょう。

しかし、現実は自分の時間は、不思議となくなり、本たちは積まれていくのです。あなたとの出会いを、部屋の本棚で待ち続けています。

さて、先日出版された本の一部を引用して、伊藤亜沙さんが話しを展開して下さいました。

皆さんが積んであるこの本と再会する方法の一つを教えます。それは、3月27日日曜日の19時から、川口有美子さんと語りあうイベントに参加することです。本を読んでいなくとも、本を読んだ気持ちにさせてみせましょう。

詳しくはこちらから。


https://bookandbeer.com/event/20220327_care/?fbclid=IwAR0OlnKTXxlNhQ3-SoJx5Y1qm0Rbb0ghSEqHt5QtAm1xMgMKbprNVH5X9J0

(オンラインのみ。1ヶ月見逃し配信あり)

“医師の新城拓也さんが、川口有美子さんとの対談で、カルテについて語っているのですが、その内容に驚くと同時に、妙に納得もしてしまいました(『不安の時代に、ケアを叫ぶ』青土社、2022年)” 

苦し紛れのアンダンテ(伊藤亜紗) | みんなのミシマガジン

https://www.mishimaga.com/books/boketorita/004100.html

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