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2021年11月

2021年11月 5日 (金)

「相手に恥をかかせない」ケア

病弱で生活力が落ちているとの連絡があり、知り合いの薬剤師にお願いして高齢の親戚夫婦の家を訪ねてきました。
僕が高齢者のケアで一番大切だと思うことは、「相手に恥をかかせないこと」です。この事をいつも心に留めていれば、相手の警戒心はとけてケアの始まりを作れます。
その日、伯父と伯母は僕らが来るのを待ちきれず、家の外をウロウロしていました。
東から来るのか、西から来るのか、車で来るのか、歩いてくるのか考え続けているうちに、家の中にいてられなかったのでしょう。そして僕たちの姿を見るととても嬉しそうに安堵しそして、家の中に入るなり、小さな庭で作ったという、形の悪い小さなゴーヤをくれました。
まず、最近の体調を聞きました。いつもの甥の顔ではなく、医者の顔になっていました。彼女は気配を消してそばに座りそして、生活全体を見渡すためにちらり、ちらりと台所や居間を見渡していました。薬剤師なら一番関心をもつであろう、テーブルの上にある薬の袋もいきなり手を出して中味を見るのではなく、ちらり、ちらりと見ているのです。家全体のそこに棲む人たちの様子をさりげなくスキャンしているのです。そして自分の中に感じた違和感は留めおいて決してその場では口に出しません。
伯父は色々と話しているうちに警戒心もなくなり、饒舌になってきました。そして、ほとんど開店休業中の事務所に、「何か困ったことがあれば連絡しんさい」と初対面の彼女に、震える手で自分の連絡先をメモに書き渡しました。
伯母はそんな伯父に「もうあんたにできることはないんじゃけえ」とたしなめていましたが、彼女は「なにか相談する事があれば連絡しますね」と応えてくれました。
彼女はゴーヤもメモも大切なものを受け取るように、その手に収めて、相手の気持ちを受け止めてくれました。
よく宴会や飲み会で、この人は信頼できる方だと思っても、現場を共にするとがっかりする方もときにいらっしゃいます。言っていることとやっていることが違う方もたくさん見てきました。
職場の違う彼女とは数え切れないほどの宴会を繰り返していますが、現場を共にしたのは初めてでした。
彼女は本当に信頼できる方だと思いました。
高齢者の生活を相手に恥をかかせないように、ちらり、ちらりと見て、かつては活動的で輝いていた相手に恥をかかせないように、気持ちを受け止めることができること、親であっても親戚であっても、他人であっても、高齢者いや、全ての人に「恥をかかせないこと」きっとこれがケアの根幹なのです。

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