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2020年11月 5日 (木)

僕の好きだった彼女「体を重ねることって」

僕が18歳との時、初めての女性の感触に夢中になった。一つ年下のガールフレンドは、クリスマスイブの夜に、どちらから誘ったわけではないのに、とても自然に一つのベッドの中にいた。

僕はどう行為を進めて良いのか分からず、じっとしているだけだった。僕の知識はせいぜいポルノビデオで、力強い男がただ女をねじ伏せて、やがて女は官能にいたるそんな筋書きばかりだった。

自分にはそんな力強さもなく、またねじ伏せるような愛情の示し方は、彼女にはふさわしくないと思った。その時彼女は、ただ服を脱ぎ、「あなたも服を脱いでただ、ベッドの中に入ったらよいのよ」と優しく微笑み、静かに教えてくれた。

僕は言われたとおり、自分も服を脱ぎ、肌触りの良いシーツと、薄い布団の中に入った。まだ昼間なのに、緊張で周りが見えなくなり暗く感じた。

その時、彼女は僕の背中側からただそっと僕の緊張した身体に触り、自分の肌の感触を僕に伝えるような仕草をした。そこには、快感はなく、僕の身体は性的な反応は全くしなかった。彼女に触れられただけで、一瞬で緊張が解け、身体が軽くなった気がした。初めての感覚だった。

「ただ、お互いの肌の感触を伝え合ったら良いのよ、そうするだけで安心するでしょ」そう背中からささやくように言われた。彼女の触れる手が僕の肩から胸に伸びてきた。でも彼女は決して僕の快感が高まるようなことはしなかった。

僕は少し不満はあったけど、身体の向きを変えることなくしばらく目をつむり、彼女の手の動きに集中して、身を委ねた。彼女はゆっくり、身体の上を指でなぞるように動かし始めた。

その動きにはやっぱり性的な快感はないけれども、僕はやがて味わったことのない静かな感触に引き込まれていった。

とても安心した気持ちになり意識が遠のいたとき、彼女の手の動きが止まった。どちらが先だったか分からなかったが、しばらく眠りについてしまったようだ。僕は夢の中で、彼女の背中から僕と彼女の二人を見るという不思議な光景を目にした。二人の呼吸と心拍、そしてどうしてそんなものが、見えたのか分からないけど、脳波が完全に一致しているのが分かった。

気がつくと日が暮れていた。昼間の優しい光と優しい肌の感触は、周りの暗さで急に現実に、引き戻された。「早く家に帰らないと」彼女は静かに言って、自分からベッドを離れてしまった。僕は彼女の手を、初めて強い力で引き寄せようと、ぐっとつかんだ。

でも彼女は、「また今度」と全く未練のない、媚びない笑顔で、あっという間に服を着てしまった。そして振り返ることもせず、部屋から出て行ってしまった。裸のまま一人取り残された僕は、自分の性的な欲求を持て余すことなく、始めての女性の感触の余韻に満たされていた。

その穏やかで優しい感触は、どこに行き着くこともないけど、僕を確かに安心させて、人と人は分かり合えないけど、言葉を使わずとも、肌と肌で何かを伝え合うことができると確かに知った。

彼女はしばらくすると、思い当たる理由もなく、僕の前には現れなくなってしまった。

そのから、僕は自分の中で生まれた優しい感触を長い間求めてきたが、再び得ることはできなかった。彼女を求めているのか、あの感触を求めているのか自分でも分からなくなったまま、時間が過ぎていった。

「もしかしたら、あの感触を再現できるかもしれない」と、思った事もあるが、駄目だった。ただ肌を触れあう、優しい肌の感触を確かめ合うことができる人とは出会いないまま、猛々しく、どこか演技的な性的な快感を追い求め、行為の時間を終わることが、一連のことなのかと思うようになった。

始まりがあれば、きちんと短時間の間に終わりがある。性行為も、仕事のプロジェクトと同じように、キックオフがあり、〆切がある。その〆切に向かって、納期に間に合うようただひたすらに、自分を鼓舞して、アドレナリンを分泌させるように仕向ける。それを快感と喜びと思い込むように努力してきたのではないだろうか。

彼女と過ごしたあの午後のひと時から、身体的な充実感を体験できず、段々と体力と、自分で高める性的な快感にも、限りがある年齢に達してしまった。

久し振りに彼女と会い、僕も彼女もすっかり年齢を重ねてしまったことを実感した。でもあの午後の彼女と同じように、「ただお互いの肌の感触を伝え合ったら良いのよ」と、あの時と同じように彼女はひんやりとした床の上で、僕にささやいてくれた。でも、あの時と同じ静かな気持ちにはもうなれなかった。

18歳の僕が、たった一度だけ体験したあの時の感触は、あの時の彼女にしか、僕の心の中に作り出せないものなんだと、彼女の表情を久し振りに見ながら確信した。

なぜ肉体の快感に没頭できず、自分の心に冷めた場所があるのか、今まで僕が何を求めていたのか、あの日から30年経ってやっと分かったのだ。

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