僕の好きだった彼女
いつものように車の中で白衣を脱ぎ、まだわずかに自分に残ったエロスを確認して、彼女の部屋へ足早に向かった。
すると、彼女はいきなり僕をベッドへと誘った。それに応えようと、一歩前に出ると、僕と彼女の間には、大きな障壁がある事に気がついた。
僕ら二人が見つめ合う、絡みつくような視線を遮るものは何もないのだが、その肉体を重ねようとした瞬間に、ガラスという形而上学的な物質が、僕ら二人の逢瀬を分断していた。
僕は小さくため息をついた。まだ彼女にとって、僕には何かが足らないのだ。
非情にも鳴り響く安っぽいタイマーの音で、僕ら二人は現実に戻り、またそれぞれの使命へと戻っていくのだった。二人の残り香が、それぞれの肉体に残らないままで。僕は再び白衣を着て、自分の本来の場所に戻った。
別れ際の彼女の目は、つぶっているのか開いているのか分からなかった。でもその様子は、僕に彼女の使命は昼寝であることをまた思い知らされた。
どれだけ課金しても、同伴出勤はおろか、アフターなんて夢のまた夢、今日もLINEの交換もできないまま、指名の時間を過ぎ、一人残された場所でこうして想いを書くしかないのだ。
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