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2020年3月

2020年3月10日 (火)

クラシックコンサートを安全に開催するための、新型コロナウイルス対策について

私が所属する六甲フィルハーモニー管弦楽団は3月8日の公演を中止しました。

医学的にエビデンスに基づく対策だけでは、人の感情を安心させることができないこと、観客の多くは高齢者であること、国内の多くの学校が一斉に休校となったこと、イベントの開催の自粛要請が政府からあったことから、致し方ない決断と考えます。

一方で、クラスター感染の原因となる、「屋内の閉鎖的な空間」で、「人と人とが至近距離」で、「一定時間以上交わること」 ようなライブハウスとは異なり、「静かに鑑賞」し[1]、「空調管理がなされているホール」で行う[2]、クラシックコンサートなら安全に開催できると考え、下記に開催するために準備していた注意書きを記します。

2020年6月21日に加筆しました。この記事を書いた当時よりもいろいろなことが分かってきました。改めて加筆します。

クラシックコンサートを行う上で配慮するウイルス感染対策について流行期・パンデミック期と非流行期・非パンデミック期に分けて改訂しました。
2020年6月21日時点で、私の住む神戸市は新規の新型コロナウイルス感染者が2020年5月28日以降おりません[5]。現時点で、非流行期・非パンデミック期と判断できます。流行期の内容は、今のような非流行期には過剰な対策です。今、なぜ私の住む神戸市も含めてこのあたりの地域が非流行期に入ったのか、様々な科学的な吟味がされてはいますが、「誰もよく分かっていない」ことなのです。

まだ新型コロナウイルスの流行、非流行を決める要素は何であるのか、医者も科学者も、医療者も評論家も、ワイドショーのコメンテーターも、政治家も教育者もよく分かっていないのです。新型コロナウイルスの感染状況のデータを見ながら、それぞれが行動を切り替えること以外に、感染の拡大を予防する方法はないのです。

それでもウイルス感染対策が、全ての価値観の上位に来て良い時期は、限定すべきで、それに伴う行動様式の規制や(いわゆる自粛)、人権の制限(移動するな、集まるな、何もするな、家にいろ)も最小限に留めなくてはなりません。いや、自分自身を自分の意思で規制するのは良いのですが、誰か他人を規制するのは不健全な社会です。個人の規制の集合が、社会の規制になるのであれば、それが理想でしょう。

新型コロナウイルス感染対策は、コンサートを主催する地区、地域が「流行期か非流行期か」を見極めて対策することがとても重要です。私は最近過剰な対策をする教育現場や医療現場を批判してきました[6,7]。過剰な対策は最早ウイルス対策ではなく、風評を意識した人間対策です。

新型コロナウイルス感染の第一波が過ぎてから厚生労働省から発表された抗体検査の結果は、東京都、大阪府、宮城県で1%未満でほとんどいないことが分かりました[8]。過去に新型コロナウイルスに感染したと考えられる人は、ほとんどいないということです。(他にも仮説はありますが、ここでは割愛します)

新型コロナウイルスの感染者は、強い症状で入院が必要な一部の方と、症状がないか、もしくは軽い大多数の方がいることが分かりました。しかし予想以上に「知らないうちに新型コロナウイルスに感染し普通に生活している人」は抗体検査の結果からもほとんどいないのだろうと私は検査の結果を素直に推測します。

あらゆる規制を考えるときには、「流行期か非流行期か」と「ウイルス対策か人間(風評)対策か」を意識して立案、実行するように求めます。今のような神戸市の非流行期には、必要最小限のウイルス対策を行って、通常通りコンサートを行って良いと考えます。「もしもクラスター発生したとき、自分たちの組織が社会に抹殺される」という人間(風評)対策は、どれだけ立案、実行しても100%の対策にはなりません。

ゼロリスクバイアス(信仰)に基づいた、人間対策を行わないよう、音楽活動のみならず皆様の所属する組織、そして家庭においても対策をそれぞれが熟考するそんな社会を私は医師として望んでおります。

必要最小限のウイルス対策(非流行期/非パンデミック期)

・観客の方へ

・風邪気味かな、風邪かなという人は、絶対にコンサートに来ないで下さい。

約束だから、楽しみにしていたから、誘われているからといって、自分に嘘をついてコンサートに来ないで下さい。正直に「体調が悪いので行けません。ごめんね」と断る勇気をもちましょう。

・コンサートの主催者、演奏者、運営者、係員が、あなたの考えるウイルス対策をしていないと感じても責めないで下さい。

コンサートに関わる人たちも、自分自身の健康を自分自身でチェックし、そして健康であることを確かめて当日に臨んでおります。新型コロナウイスルに感染していないと100%証明することは、現時点の医学の力をもってしてもできません。また、新型コロナウイルスに感染し、本人も気がつかずに普通に行動している方は、少ないのであろうことが分かっています。

・ご自身が不安を感じるのであれば、コンサートに来ないで下さい。

100%の安全を確保することは、どれだけ対策してもできません。コンサートを開催する以上は、安全を確保していると他人を信じることができないのであれば、ご自身の意思で参加を断念して下さい。

・マスクを着けていたい方は着けていても構いません。またアルコール消毒で手指を消毒したい方はご自身で用意して行って下さい。トイレで手指を石鹸で洗うだけで十分です。

非感染期にマスクをしていたいのであれば、それは個人個人で行うことです。マスクをして外を歩く、マスクをしてコンサートの客席に座る、ご自身で着けていたい方は着けて下さい。隣で咳をしている方がいても、その方も自分自身の健康状態をきちんと管理してコンサートに来ていると信頼することです。自分の周囲の知らない他人を信頼できない方は、周囲を責めずにどうかコンサートに来ることをあきらめて下さい。

・コンサートに来ることができないときは、代わりにネット (YouTubeなど)で配信されるコンサートを自宅で視聴しましょう。

同時に音楽を体験する臨場感と、自分の五感を十分に満足する画質、音質は得られませんが、「本当はコンサートに行きたかった」という気持ちを、ネットでいくらか慰めることができるかも知れません。

・運営の方へ

・どれだけ対策しても、100%安全にはできなことを共有しましょう。

ステージ上、演奏者に必要以上の対策をさせることは、ウイルス感染対策を行う「新しい生活様式」とは言えません。運営者、演奏者が行き来の際に手洗いをし、自分自身の健康状態を正直に申告できる組織作りをして下さい。例え演奏者の誰かが、発熱したとしても、直ぐに降板を決定し、代わりの演奏者を用意できる、もしくは音がなくなるリスクを引き受けましょう。

・ウイルス感染対策をしているのか、風評被害を防ぐ人間対策をしているのかよく考えて下さい。

100%のウイルス感染をするのであれば、コンサートを中止しましょう。それでもコンサートを開催するのであれば、全ての運営者、演奏者、そして観客と協力し合って、楽しみもリスクも共有しましょう。

・ コンサートに来たくても来ることができない方のためにネット配信をしましょう。

新型コロナウイルス感染流行の以前からも、都合が合わない、距離が遠い、他の予定を優先したい、子供が小さいので行けないといった多くの声があります。またかつての団員の方も、自分や家族の事情で転居し、今でもオーケストラを大切に思っている方もいることでしょう。どのオーケストラにも組織にも、自分たちが知らないファン、サポーターがいます。音楽活動をするということは、ただ自分が演奏して楽しいと言うだけではなく、ファンやサポーターの人たちとも社会的につながる方法を、自分たちで作り出していく活動が求められていると思うのです。

厳重なウイルス対策(流行期/パンデミック期に近いとき)

・観客の方へ

現在、感染が問題となっている新型コロナウイルス(COVID19)に限らず、インフルエンザウイルスも飛沫感染、接触感染をおこします。新型コロナウイルスは、ライブハウスのような、換気の悪い、大きな声を出す、観客同士の距離が近い場所では、クラスター感染をおこすことが知られています。しかし、クラシックコンサートのように、静かに鑑賞し、またホールの換気設備が整った場所では、対策することで医学的に安全に開催できると考えられます。

ウイルス感染防御の観点から皆様にご協力頂きたいことについて下記に記します。

1. 開場前に列を作り並ばず、開場してからお越し下さい。

2. 健康な自覚のある方でも、流行期にはご自身で準備したマスクをご使用下さい。マスクが新型コロナウイルスの感染拡大の予防に明らかに有効とは明言できませんが、どうやら有益なようです。

3. 受付の係員との接触を避けるため、チケットを回収箱にご自身で入れて下さい。スマチケのようにスマートホンにチケットをお持ちの方はご自身で操作して入場して下さい。

4. プログラムはご自身でお取り下さい。

5. 入場後はトイレで、手洗いを20秒以上お願いします。石けんを使うとより効果的に手に付着したウイルスを除去できます。

6. 開場に入場後は、可能な限り前後左右、1席空けてご着席下さい。

7. 会場内のドア、机、手すり、椅子など可能な限り手を触れないようにご注意下さい。

8. 会場の入退場は、係員がドアを開け閉め致します。それまではお待ちください。

9. 演奏中に、咳やくしゃみが止まらなくなったときには、どうぞ途中で退席してくださって構いません。その際には、ご自身でドアを開け閉めして下さい。

10. 終演後「ブラボー」の掛け声は、今回に限りご遠慮ください。

11. 終演後は楽屋に入る、ロビーで歓談する事は避けて速やかにお帰りください。

12. アンケートも回収箱に入れてください。

・運営の方へ

1. 受付、プレゼント受付、クロークを含めて、観客と担当者の手と手の接触をできる限り避けてください。マスク越しに2mくらいの距離をとれば、短時間の会話は全く問題ありません。

2. 流行期には健康を自覚している担当者でもマスクをしておく方が良いでしょう。感染予防の意味のみではなく、観客の不安を軽減するためにマスクを付けましょう。

3. チケット、アンケート、プレゼントに付着したウイルスを、担当者が手を介して、自分自身、また他の観客に伝播することを防止してください。スマチケのような電子チケットも、相手のスマートホンには決して触らず、観客自身に操作してもらうか、そのまま放しましょう。

4. 回収したチケット、アンケートはウイルスが不活化する7日間は、箱の中でガムテープで密閉して保管してから確認してください[3,4]。

5. チケットやグッズ販売では現金のやり取りをしない。お釣りのない金額にする、観客を信じて振込にする、バーコード決済にする。準備したお釣りのみ手渡して、他の観客のお金をお釣りにしない。回収した現金は、7日間密閉して保管する[3,4]。

六甲フィルハーモニー管弦楽団(神戸市) 団員 新城 拓也(内科医師)

1) "お話しなければリスクは低いでしょう。クラシックコンサートは別に喋らないですね。ロックコンサートや野球は叫びますよね。野球も騒がなければ、無観客試合でなく、やれる方法はあるのではないかと模索してはどうでしょう。"(Buzzfeed Japan Medical 和田耕治 国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授 2020.2.28)

2)"日本のコンサートホールの換気の基準は厳しいのです。入れ替えが激しすぎて、ピアノのマウリツィオ・ポリーニが「風が吹いてるじゃないか。演奏できない、止めろ」と言ってきたくらい。"(朝日新聞 梶本眞秀・KAJIMOTO社長 2020.3.10)

3) https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/14/091100031/031700668/?P=2&cs=np

4) Kampf G, Todt D, Pfaender S, Steinmann E. Persistence of coronaviruses on inanimate surfaces and their inactivation with biocidal agents. J Hosp Infect. 2020;104(3):246–251. doi:10.1016/j.jhin.2020.01.022

追加

5)神戸市 市内での患者の発生状況について https://www.city.kobe.lg.jp/a73576/kenko/health/infection/protection/covid_19.html 2020年6月21日アクセス

6) 立ち上がれ! 大学生よ。http://drpolan.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-991cc4.html

7) Patients' lives matter. (患者の命を軽く見るな)医療現場の残酷物語。僕がこの4ヶ月間見てきたもの。http://drpolan.cocolog-nifty.com/blog/2020/06/post-8062b3.html

8) 厚生労働省 新型コロナウイルスに対する抗体保有調査結果 https://www.mhlw.go.jp/content/000640287.pdf



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