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2019年3月30日 (土)

コンフォートセットは誰のため? 不適切な薬物使用を止めるために

この数年、時々頼まれる原稿です。こちらにも再録しておきます。

苦痛緩和に対する臨時投与薬(コンフォートセット)を予め処方しておき、家族や看護師に使用する状況を明確に指示しておく(表)。また処方をしておくことで、医師に対する緊急時の電話連絡にも対処しやすい。コンフォートセットを処方しておかないと、結局は、医師が現場に到着するまで患者と家族は苦痛を体験することになる。また時間外により処方薬がすぐに手に入らない可能性もある。苦痛の原因となる症状や発現時期は予測できないため、内服できなくなった時期を見逃さずに必ず処方しておく。

表 臨時投与薬の例(コンフォートセット)

症状

薬剤

コメント

疼痛

ボルタレン坐薬  or/and

アンペック坐薬 

定期的にオピオイド投与中ならアンペック坐薬10-30mgを投与。

呼吸困難

アンペック坐薬 or/and

ワコビタール坐薬

オピオイド未使用ならアンペック坐薬は半量の5mgとするか、ワコビタール坐薬を投与することもある。

せん妄(不穏)

ワコビタール坐薬 or/and

ダイアップ坐薬

 

リスパダール液 0.5 mg

なかなか効果が得られないこともあり、繰り返し投与することもある。

気道分泌過剰(死前喘鳴)

アトロピン点眼薬 (1回2-3滴を舌下投与)

医師、看護師によりハイスコ or ブスコパンの舌下投与、注射で対応することもある

 

 苦痛緩和の基本薬である医療用麻薬は、内服ができなくなれば貼付剤、坐薬、注射のいずれかに変更する。注射に関しては静脈ルートの持続的な確保が困難な患者がほとんどであることから、小型の電池式携帯型シリンジポンプや、ディスポーサブルタイプの注入器で持続皮下注射が行われる。当院で使用しているコンフォートセット(内服、坐薬のみ)を図に示す。

図 コンフォートセット (薬剤費; 経口薬のセット=150円、坐薬など非経口薬のセット=1100円)

20190330-224259  

 

コンフォートセットの必要性を在宅医療の現場から考える

医師が診察後、患者の苦痛に対して速やかに薬剤の投与が必要な場合、薬剤がなければ治療が実行できない。場合によっては、薬が届くまで患者は苦痛に耐える時間が長くなってしまう。医師は薬を普段持ち歩いているかどうかによって、患者の苦痛の程度にも差が出てしまう。また、薬を入手するために処方箋を発行したとして、薬と引き換えようと家族が薬局に取りに時に、薬局が開いているとは限らない。また薬を入手する目的に、営業時間外であっても薬剤師の訪問を強いてしまうようでは、周囲の医療スタッフも疲弊する。

また、看護師のみが、患者の苦痛に立ち会った場合、薬が現場になければ、薬剤を使用することができない。病院勤務出身の看護師は、指示がないと不安になる。当たり前。

苦痛は優しい言葉と、タッチングケアで軽減はするかもしれないが、やはり確実な症状緩和に薬は必要である。そのような薬の不備を補うため、看護師が、患者に処方されていない薬を手元に持ち対処している現実がある。管理上大きな問題である。特に、死亡患者の廃棄すべき処方済みの医療用麻薬を、医師や看護師が手元に残し、他患者に流用するのは、問題である。

加えて、暑い夏は、医師も看護師も坐薬を持ち歩く事ができない。坐薬が溶けてしまうためである。このような現場の問題を解決するためにもコンフォートセットの処方は患者の苦痛緩和と、薬剤の管理と適正使用の観点から必要である。

コストについては、取材記事より引用。

 「日本で在宅コンフォートセットが普及するには、多くの課題がある」。こう話す新城氏が真っ先に挙げるのが、保険診療上の扱いだ。症状の悪化を予想して、あらかじめ処方しておくという「事前処方」は、保険診療上、問題視される可能性がある。また、処方した薬を使わなかった場合、その薬は廃棄処分となってしまう。

 こうした壁を乗り越えるために新城氏らは、在宅コンフォートセットを院内処方することにした。セットの薬を患者宅に薬を預かってもらう形として、月に1回、使った分だけを保険請求する。使わなかった薬は回収する。使用していない薬剤については、処方箋は発行しないし、もちろん薬剤料を保険請求することはない。

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