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2017年11月

2017年11月 9日 (木)

VSED (自発的に飲食を止めること)で死期を早める患者について

皆さんはVSEDという単語を知っていますか?
VSEDとは、Voluntarily stopping eating and drinkingの略で、自分で飲食を止めることで、患者自身が死期を早めるための方法です。安楽死や医師による自殺幇助の代替方法として海外では知られています。

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実際に日本の医師(緩和ケアと在宅医療の専門医)がどの位このような患者を経験しているのか、私たちは2016年初めての調査を行いました。それによると、32%の医師がVSEDを試みた(完遂したかどうかは不明)患者を経験していました。

その調査について論文を書きました。本日BMJ Supportive & Palliative Care (よく聞かれますが本家BMJではありません)に掲載されました。

この調査は、219名の在宅医学会専門医と695名の緩和医療学会専門医を対象にして行った調査の一部です。合計914名のうち、67%が返答しました。52%の医師がVSEDについて知っていました。32%の医師が、1人以上の患者がVSEDを試みた経験がありました。さらにVSEDに伴う苦痛(倦怠感、空腹感、口渇など)に対して、15%が緩和的鎮静の適応があると答えました。

最近VSEDに関する論文は、JAMA intern medにも掲載されており、海外ではよく知られた患者の行為です。倫理的な葛藤も大きく、VSEDを実行する患者と医療者がどう向き合ったら良いのか臨床的、倫理的な議論があります。

・ 患者が決めたVSEDの実行を医師が容認すれば、医師は何も治療してはならない。(患者の意志に背いて、点滴を行う、栄養投与を行うことができない)

・ 患者が決めたVSEDの実行を医師が否認しても、医師は何も治療することができない。(無理矢理患者に、点滴を行う、栄養投与を行っても、患者自身が治療を中断できる。点滴を自分で抜いて治療を止めることができる。点滴を抜かないように医師が患者の手足を抑制するのは、容認されないのではないか)

安楽死、医師による自殺幇助が認められない患者にとっては、VSEDを試みる動機になってしまうようで、論文にも引用していますが、オランダではVSEDの患者に対するケアのガイドラインも存在します。(KNMG Royal Dutch Medical Association, V&VN Dutch Nurses’ Association. KNMG position paper: caring for people who consciously choose not to eat and drink so as to hasten the end of life. Utrecht, the Netherlands: Royal Dutch Medical Association, 2014.)

またアメリカ看護師協会もVSEDを決めた患者の意思を尊重するように言及しています。Decisions about accepting or forgoing nutrition and hydration will be honored, including those decisions about artificially delivered nutrition as well as VSED. 

日本ではまだよく知られていないVSEDですが、終末期医療に関わる医療者は知っておく必要があると思います。

Shinjo T, Morita T, Kiuchi D, et al. BMJ Supportive & Palliative Care Published Online First: [please include Day Month Year]. doi:10.1136/ bmjspcare-2017-001426

(表の翻訳は筆頭著者)

表 医師の内訳、VSEDの知識、経験、VSEDを行っている患者に対する持続的深い鎮静の適応

N (%)

年齢  平均(標準偏差)

52 (9.0)

性別

     男

445 (78)

     女

117 (21)

医師の種別

     緩和医療学会専門医、暫定指導医

440 (77)

     在宅医学会専門医

131 (23)

臨床経験年数 平均(標準偏差)

26 (8.9)

専門領域の経験年数 平均(標準偏差)

13(6.3)

主な勤務形態

     緩和ケア病棟、ホスピス

155 (27)

     緩和ケアチーム(病院)

211 (37)

     在宅医療

182 (32)

勤務している医療機関

     大学病院

76 (13)

     がん診療連携拠点病院

167 (29)

     診療所

169 (30)

     その他

152 (27)

VSEDをよく知っている、聞いたことがある

301 (53)

VSEDを実際に試みた患者の経験(患者数)*

     ない

374 (65)

     1-5人

168 (29)

     6-9人

8 (1)

     10人以上

9 (2)

VSEDを行っている患者に対する持続的深い鎮静の適応 **

     適応

88 (15)

     適応ではない

203 (36)

     どちらともいえない

265 (46)


欠損値のため合計が100%にならない箇所がある
* 医師が今までに経験した患者数
**  あなたは、VSED(自発的に経口摂取をやめて死亡すること)に伴う、空腹感や倦怠感の強い苦痛があったとしたら、患者、家族が同意すれば、持続的な深い鎮静の適応と考えますか?
VSED; Voluntarily stopping eating and drinking  自発的に飲食を止めること
資料

「最後の手段」

の選択肢

内容

現在の法的状況、倫理的な位置づけ

アメリカ、カナダ

日本

強い痛みや呼吸困難に対して、適切にオピオイドを処方

患者の苦痛に対して、医師が適切に緩和ケアに準じた医療行為を行うこと

合法

倫理的にも受け容れられる

合法

生命維持の治療を中止、もしくは開始しない

患者が心肺停止状態となっても蘇生行為を開始しない。

気管内挿管され、人工呼吸器で管理された患者の抜管や人工呼吸の中止をする。

合法

倫理的にも受け容れられる

合法か違法か判断されていない **

緩和的鎮静(緩和困難な苦痛に対する鎮静)意識がなくなる可能性がある

強い痛みや、呼吸困難、強い不穏を伴うせん妄に対して、睡眠薬を投与し苦痛を緩和すること。

合法

もし患者や、医師が死期を早めることを意図しているなら、倫理的に意見が分かれる(controversial)

合法か違法か判断されていない ***

自発的に飲食を止める(VSED)

飲食できる状態の患者が、自ら死を早めるために、飲食を止めること。

違法ではない、合法か違法か判断されていない

倫理的に意見が分かれる(controversial)

合法か違法か判断されていない

医師による自殺幇助 *

医師が、致死量の睡眠薬を処方し、患者自身が服用し死に至ること。

アメリカの6つの州とカナダでは合法

アメリカの30以上の州では違法で、その他州では不確定

倫理的に意見が分かれる(controversial)

合法か違法か判断されていない

安楽死 (自発的、積極的安楽死)*

医師が、致死量の睡眠薬を患者に投与し、死に至ること。

アメリカでは違法、カナダでは合法

倫理的に意見が分かれる(controversial)

違法

表 死期を早める可能性のある選択肢 (翻訳と注釈は筆者、2列目、4列目は筆者が追記した)

・ 医師による死の助け(physician-assisted death) や、医療による死への援助(medical aid in dying)とは、安楽死や医師による自殺幇助の両者を含む。

** 国内のガイドラインでは治療の選択肢として生命維持の治療を中止、開始しないことが提案されている

*** 国内のガイドラインではがん患者の緩和困難な苦痛に対して開始して、緩和的鎮静を行うことが提案されている

引用文献

Quill TE, Ganzini L, Truog RD, Pope TM. Voluntarily Stopping Eating and Drinking Among Patients With Serious Advanced Illness―Clinical, Ethical, and Legal Aspects. JAMA Intern Med. Published online November 06, 2017. doi:10.1001/jamainternmed.2017.6307

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