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2016年10月30日 (日)

緩和ケアと大麻

最近、話題になった大麻(Cannabinoids)の医療的使用について、緩和ケアの観点からまとめておこうと思う。
医療用麻薬も大麻も、がん患者をはじめとする苦痛を緩和するのに多くの先進国で既に使用されている。この様な薬は、例えば「痛みをとる」のではなく、「人間が痛みを感じないようにする」ことが効果なのである。「痛みの場所は相変わらず痛みを発生させているが、神経を伝わらないように、脳の中で痛みを感じないように」しているのである。
私自身も医療用麻薬を日常的に使用しているが、使うべき人に使うべき種類の薬を、使うべき量で使用すれば、安全でとても効き目がある。また苦痛がかなり緩和されることで、患者の生活はより良くなる。
決して、麻薬中毒、依存のように薬を欲しがる、頭がおかしくなる、人格が崩壊することは無い。「毎日薬を規則正しく服用する」ことはあっても、「薬が無くなることを恐れて、繰り返し不安感をかき消すために薬を服用する」ことはない。
医療用大麻も、今日本で実現できる緩和ケアの限界を、少しだけでも拡げることができるかも知れない。
私も現時点でも十分に症状を緩和できない患者が存在する。適切な管理、指導、教育を前提に、医療用の大麻が使用できるようになるとよいと心から思う。
以下は緩和ケアでも有名な教科書を元に記載した。
・ 痛み
日本では、NSAIDsや医療用麻薬を使用してがんの痛みに対処するのが通常の治療である。概ね80%は患者が「この程度の痛みなら大丈夫」という治療効果が得られる。「完全に痛みがなくなる」ことは稀だし、「全く痛みがなくならない」ことも稀である。
多発性硬化症による痙縮の痛み、オピオイド(医療用麻薬)が効きにくい痛みに、ナビキシモルス(商品名 サティベックス)の口腔内スプレーが使用されている。イギリスを始めとする複数の国で使用が可能だが、日本では使用できない。
オピオイドが効きにくい痛みの代表として、神経障害性疼痛がある。良く経験するのは、脊椎骨(背骨)に転移したがんにより、その場所とさらに離れた手や足の痛み、しびれが同時に起こる痛みがある。この手や足の痛みは、痛みを感じている場所にはがんがないことから、手や足の神経が、背骨の根元で障害され痛みを錯覚させている。(神経根症状という)このようなしびれを伴う痛みは、オピオイドで完全に取れないこともある。
現時点では、抗うつ薬や抗痙攣薬(てんかんの薬)をオピオイドと併用して痛みを治療するが、ほとんど効果が無いことも度々である。
また、ナビロン(商品名 セサメット)という経口薬も、多発性硬化症、線維筋痛症、オピオイドが効きにくいがんの痛みに使用されている。カナダ、アメリカを始めとする複数の国で使用が可能だが、日本では使用できない。
・ がん患者の食欲不振
日本では、食事の工夫、ステロイド薬を使用して、がん患者の食欲不振に対処するのが通常の治療である。しかし、病状が悪化するに従って、治療効果も徐々になくなってくる。治療効果は期間限定である。
大麻の有効成分である、テトラヒドロカンノビノール(THC)の異性体、ドロナビノール(商品名 マリノール)という経口薬が、がん患者の食欲不振に効果があるかもしれない。アメリカで使用可能である。
・ がん患者の吐き気
日本では化学療法(抗癌剤)に伴う吐き気、それ以外の吐き気に各種制吐薬(吐き気止め)が使われる。その使用方法は、吐き気の原因により使い分けられている。痛みと並んで吐き気も薬の効果が得られやすい。
脳内のレセプター、神経伝達物質のうち、カンノビノイド(大麻の成分)が関わる場所がある。マリファナ(大麻)の喫煙者に抗癌剤の吐き気が少ないことから、通常の制吐薬が効かない吐き気に大麻の経口薬がアメリカを始めとする複数の国で使用されている。
・ がん患者の適応障害、不安
通常は抗うつ薬を中心とした薬物療法や、認知行動療法を始めとするセラピーが行われている。特殊な治療の1つとして、医療用の大麻が使用されることがある。がん患者の 適応障害、不安に対する使用に関するエビデンスはあまりない。
あくまでも痛み、吐き気を伴う、適応障害、不安に対して使われると考えて良い。

医療用の大麻は、高齢者には精神不安(dysphoria)を来しやすく、また若年者には多幸感(euphoria)を来しやすい。眠気、めまい、口渇といった副作用も知られている。
参考資料
・ Oxford textbook of Palliative Medicine 5th eds. 2015
・ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22483680
・ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18402303
・ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16849753
・ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16293879

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