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2016年7月

2016年7月16日 (土)

在宅医療に関する研究の進め方・実践例

20160716_102818 在宅医療に関する研究を、私のように開業医が進めるにはどうしたらよいのでしょうか。まず、「高望み」しないことです。いくら、方法論としてランダム化比較試験 (RCT) が優れているとしても、多くの予算と人手そして、 時間がかかります。エビデンスレベルが低くても自分ができる研究方法を選択することが重要です。 まず、症例報告、観察研究、調査研究、カルテレビュー、そして質的研究が実行可能な研究方法で身につけやすいやり方です。
実際に私が関わった実例をあげます。症例報告は、亡くなる前に出現する原因不明の手掌の斑点について報告しました[1]。症例報告で重要なことは、1)誰にでも再現できること、2)すぐにできること、3)誰にでも取り入られる工夫があることです。Aという疾患とBという疾患の組み合わせが稀であるという報告、とても大きな腫瘍だったという報告、自分も体験したありきたりな症例の報告、名人芸で誰も真似ができないような報告には意味がありません。新規性というのは、誰もが見落としがちだが、絶えず目の前に存在することに焦点を絞ることなのです。一生に一度出会うかどうか分からないような状況は新規性とは言えません。また、再現性というのは、ある程度訓練を受けていればきちんと他の人でも再現できると言うことです。私だけが見付けられることは再現性とは言えません。
次に後方視的研究です。まず自分が報告したいと思うトピックについて過去の論文を検索します。そして新しい論文の緒言(introduction)を読めばその研究の今までの足跡を知ることができます。システマティック・レビューを見付けることができれば、どのような項目、パラメーターがその研究にとって重視されているかを知ることができます。そして、自分のカルテを実際に見直して、項目、パラメーターを整理します。もちろん、記録されていない項目、パラメーターは集計することができません。そのようなときには論文を書き上げたときに、考察(discussion)の限界(limitation)の段落に記載します。調査していないからと言ってすぐに諦める必要はありません。
例えば私は、在宅療養中の終末期がん患者に対する鎮静についての後方視的カルテ調査を行いました[2]。このような報告は海外でも散見されていますが、まず日本の状況がほとんど分かっていないと言うことが文献検索で分かったため、現時点でのデータとして論文を書きました。日本での医療実践で、日本で情報を共有するのが相応しいと考えて、日本語で論文を書きました。何も英語論文が優れているわけではありません。あくまで論文は、読者のために書くものです。自分のためではありません。どのような読者を想定しているのかによって、書かれる言語を選択すれば良いのです。
最後に、横断研究として質問紙調査があります。まず質問紙調査のコツは、1)質問紙の設計が綿密であること、2)解析に耐えうる構造になっていること、3)既存の尺度が入っていることです。ただ度数分布がたくさん並んでいる結果を見ていても、何らそこからはデータとデータをつなぐ文脈は見えてきません。多変量解析に耐えうる構造を作るには、主調査項目とそれに関連するカテゴリーを、過去の文献検索や、研究グループの討論で作成しなくてはなりません。そして、パイロット調査で内容の表面的妥当性を確認した上で、本調査に入ります。
まず、論文には書き方の順番があります。それでも最初の一文がなかなか書くことができないのではないでしょうか。うまいコツがあるわけではないのですが、なぜ論文を書くのかについてお伝えしなくてはなりません。論文は、レポートと違い読み手を限定していません。多くの読者に向けて、開かれたものとして書くのです。現在の読者だけではなく、未来の読者に向けて書かれているいわば、自分からの「贈り物」なのです[4]。 個人の業績や共有できない関心のために書く論文は、まずジャーナルに採択されないか、採択されても読まれません。自分の研究したいこと、普段困っていることに、普遍性があるかは関連した論文を読んだり、同僚と話し合ったりしないと分からないものです。 自分のオリジナルな「贈り物」を作り出す方法を是非考えてみて下さい。
1) Shinjo, T, Okada, M, Palmar petechiae (black spots on palms) in terminally ill patients with cancer: a sign of impending death., J Palliat Med, 13(5), 2010, 615-8.
2) 新城 拓也, 石川 朗宏, 五島 正裕 在宅療養中の終末期がん患者に対する鎮静についての後方視的カルテ調査 Palliative Care Research Vol. 10 (2015) No. 1 p. 141-146.
3)Shinjo, Morita, Hirai, Miyashita, Shimizu, Tsuneto, Shima, Why people accept opioids: role of general attitudes toward drugs, experience as a bereaved family, information from medical professionals, and personal beliefs regarding a good death., J Pain Symptom Manage, 49(1), 2015, 45-54.
4) 内田樹. 内田樹の研究室 卒論心得. 2010 http://blog.tatsuru.com/2010/10/01_1523.php [2016.7.16アクセス]

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