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2016年6月22日 (水)

「緩和ケアの三つの挫折」 前編

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(本ブログに紹介された患者、家族の話は、モデルはありますが、全て私の想像上の方々です)

自分の中で大きくなっていた思いが、最近はっきりと形になってきた。
私は、「主に癌の人達の終末期に緩和ケアを提供してきた。開業してから約4年間、もっと多くの人達に応用できるに違いない」と思い、早期から緩和ケアを提供し、癌ではない人にも緩和ケアを提供する試みをおこなってきた。
今まで、緩和ケアの発想が及ばなかった領域に自分が飛び込むことで、何が変化するか体験してきた。新しいチャレンジに大いに心を躍らせ、時代の最先端をゆくケアを実践する興奮にとりつかれた。
先天疾患、神経難病、認知症、心不全、そして慢性疼痛。ありとあらゆる疾患の患者と家族に、自分が緩和ケアの専門家として身につけた、症状緩和の薬物療法、患者との対話方法(コミュニケーション)、家族ケアを応用し実践してみた。自分は、緩和ケアの専門家という自負はもとより、ほぼ信仰に近いほど、その方法論の正しさを盲目的に信じていた。
開業して4年間、自分のクリニックだけではなく、他のクリニック、総合病院、と複数のフィールドでの活動を通して、緩和ケアの実践の広がりに挑戦してきた。そして、恐れずに自分の今の思いをこう書きたいと思う。
新しい挑戦の4年間は失敗だらけだった。しかも、致命的と言ってもおかしくない失敗も数多くおかしてしまった。その三つを紹介したい。
症状緩和の挫折(第一の挫折)
がん性疼痛のアプローチは、慢性疼痛の患者には有害だった。がん性疼痛の「強い痛みがあれば、医療用麻薬の投与を躊躇しない、副作用に注意しながら、十分量を投与する。」さらにまずいのは、「痛みがあれば、レスキュー薬(頓服薬)は回数を制限せずに投与する。」この2つの、疑いのない大原則を慢性疼痛の患者に適応した結果、患者は痛みが軽減することはほとんどなく、医療用麻薬の依存症になってしまうこともあるのが分かった。
鎮痛薬のことを、英語でpainkillerとも言う。言い得て妙な語感だ。しかし、医療用麻薬は確かにがん性疼痛にはpainkillerだが、慢性疼痛には十分な効果がないこともあるのだ。がん性疼痛のように痛みを最小化しようとしても、慢性疼痛の場合はうまくいかない。つまり、医療用麻薬は、痛みによってはThe king of painkiller(最強の鎮痛薬)ではないのだ。青天井の増量ルールに従って医療用麻薬が多く投与されたら、さらに最悪な結果となる。開業した2年目には、そんな患者をあちこちの医療現場でみるようになっていた。そして、自分もついに本物の医療用麻薬の依存症に遭遇したのだ。
総合病院で、あるがん患者の痛みに、医療用麻薬が投与されていた。しかし、痛みの性質や、画像をよく見てみると、癌の再発がないのだ。「がん患者が痛いと訴えれば麻薬をきちんと使う」という教育効果は確かに市井の医師にも相当広がってきた。そして、この患者は確かにがん患者ではあるのだが、合併する慢性疼痛に対して、医療用麻薬がかなり大量に投与されてしまっていた。そして、私の所に紹介となった。
おかしな行動がたくさんみられた。速効性の医療用麻薬を1日8回以上は使うことがほとんどで、その服薬パターンは、痛みだけではなく、気持ちを落ちつかせるために使っている様子だった。タバコを吸うように速効性の医療用麻薬を服用していた。そして、その薬が減ることに異常な恐怖を感じていた。毎日、薬を使った時間、回数を紙にきちんと書き留めていた。私は、治療者として最初は好感を持ってその習慣を見守っていたが、途中から、医療用麻薬がなくなることに相当な恐怖を感じるらしいことが分かってきた。
慢性疼痛と分かりながらも医療用麻薬が減量できずに時間が経っていった。他の鎮痛薬を併用しながら医療用麻薬を減量することを提案すると、驚くほど怒りだした。どう対処したら良いのか分からないまま時間は過ぎ、ある時、急に診察が終了した。もうこれ以上医療用麻薬を使っての治療はできない、総合病院で診療を続けるように話し、一旦自分の診察を終了した。
大きな挫折感だった。自分は医療用麻薬の使い方に習熟し、その絶大な効果も、そして副作用も理解しているつもりだった。しかし、目の前の医療用麻薬の依存症の患者をどう治療したら良いのか、全く知らなかったのだ。自分の無知を恥じ、慢性疼痛の治療に関わる専門家の職場を何カ所も見学しては、がん性疼痛と治療のアプローチがどう違うのかを聞いてまわった。また日本には数少ない薬物依存の専門家にも意見を聞いた。
国内には、まだ薬物依存を十分に扱える病院が無いことも分かった。自分一人でこの医療用麻薬の依存症の患者を診察することに挫折を感じ、また同時に恐怖を感じた私は、紹介されてきた元の総合病院で診察を受けるように促した、というよりも、逃げ出したのだ。(その後この患者はきちんと総合病院に通院し治療を受けている)

後編につづく

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