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2014年6月 6日 (金)

苦悩する医師への緩和ケア

昨日の市内のとある病院で行われたカンファレンスに、ゲストスピーカーとして参加しました。

外科のドクターが「何とかしよう」と力を尽くした手術が予想よりもうまくいかず、経過が悪かったがん患者さんの話でした。メスを入れた外科医は、患者の身体と病状、命に対して大きな責任を負ってしまう。その結果、患者以上に病状の悪化に対する否認が強まり、「いったいわたしどうなっているの」という患者と向き合えなくなる。とても悲しい話です。

私も医者になってすぐ脳外科医をしているときに、同じような状況になったことがあります。延命治療、過剰治療はこういったときに始まります。自分のできる技術と知恵で患者を救おうと思うと、どうしても外科医は手術を繰り返してしまいます。「何もしないこと」が最善とは考えられないのです。術後の経過が悪く、無用な検査を繰り返し徐々に時間が経っていく。何をしても成果が出ない苦しみと焦りが、患者にも医師にも広がっていきます。

そして、一番身近な医師はもう後には引けない。前にも進めない。患者、家族と向き合えなくなる。 そんなときにどういう助けが必要なのかをお話ししました。病棟の看護師はいつも患者、家族と医師の板挟みに困っているので、そういった医師と患者がコンフリクトしている状況はそっと教えてくれました。私はいつも、「隣の患者を診察していたとき苦しそうでしたので・・」と無理矢理とも言える方法で、担当医と話す糸口をつかんでいました。

その医師の邪魔にならないように、その医師が査定を受けているような気分にならないようにまずは関わりを持っていく。そして、その医師の負担感、苦悩を軽減していくように関わっていく。 「先生が手術をしている間、外来で忙しい間、患者さんとじっくり話をしてきます。内容はお手すきの時に報告します」と語りかけ、担当している医師に関わっていくようにしました。患者も医師も病識がなければ自分から進んで助けを求めないものです。

緩和ケアを始めようと思ったら、相手からのサインを待っていては始まらない。
徐々にでも外科医は心を開き、自分なりにベストを尽くしても結果が出ない苦悩を話すようになります。それから患者にも緩和ケアを提供する私自身の関わりを徐々に増やしていくようにしていました。外科医は一人間として患者と向き合えるように、つまり「お見舞いを熱心にする、親しい大切な人間のひとり」になれるように、私も努めるのです。外科医のやり方を裏で揶揄したり、看護師にぼやいてはなりません。

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こうして、医師の苦悩を軽減することで初めて、患者や家族の苦悩を軽減することが「始められる」と思い、仕事をし続けています。苦痛のトライアングル(図)の、どこからでも手が付けられるのです。患者、家族を救うには、そばで苦しむ医療者からまず手助けすることが、実は一番早道で成果を出しやすいと思います。
そして、大きな病院での勤務医を辞め開業した今も、一番身近で責任と苦悩と強く感じている医師がもしいるなら、訪問診療や外来診療を通じてその医師の力になれないかと試みています。

医師への緩和ケアは、患者への緩和ケアの入り口です。

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