痛み、苦しみは緩和できるのか? (症状緩和)
痛み、苦しみは緩和できるのか? (症状緩和)
家族C
「がんの最期はとっても苦しむって聞いています。それを聞いてから毎日が恐ろしく、不安なんです。」
患者B
「これから苦しむんだろ。今は大丈夫でもやっぱりこれから苦しむんだろ。」
過去の研究から、最後の3日間に中等度から強度の痛みが半数の患者が経験したことが遺族調査で分かっている。[13]しかし、自験例も含め、適切な緩和ケアを受けている患者には、ほとんど苦痛なく最期を迎えるとも報告されている。[14-16]
苦痛なく穏やかに亡くなることが、家族の求める看取りのケアである。[11]医療者は、症状の緩和に習熟する必要がある。
看取りの時期になってからよくみられる症状は、疼痛、呼吸困難、せん妄(不穏)、気道分泌過剰(死前喘鳴)である。[12]看取りの時期の患者の多くは、内服ができない状態であるため、薬物の投与は経静脈的か、持続皮下注射で行われる。静脈ルートの持続的な確保が困難な患者が難しい患者がほとんどであることから、海外でも日本でも小型の電池式携帯型シリンジポンプで持続皮下注射が行われる。[12]
疼痛や呼吸困難にはオピオイド、モルヒネが投与されることが多い。一方で、意識が低下しつつある患者の疼痛や苦痛をどのように医療者が評価するかという課題もあり、表情、仕草から苦痛を評価する方法が提案されている。[17]呼吸困難に対しては、酸素投与が行われることもある。しかし、看取りの時期の患者は、筋力低下、るいそうから、胸郭の呼吸運動が低下し、その結果として酸素飽和度が低下する。またこのような状況の患者は、呼吸困難を自覚し苦しんでいないことも多い。従って、酸素飽和度を上昇させる目的のみに酸素投与を行うことはすすめられない。
せん妄(不穏)は、終末期がん患者の85%とほとんどの患者でみられる。[18]本来、せん妄というのは、身体疾患が原因となる、精神状態の変化を指す。外科手術後や、集中治療室で状態の悪い患者が一過性の不穏状態となることが、臨床的には一般的である。そして、身体の状態が回復するにつれて、せん妄も回復する。(可逆)
しかし、がん患者が看取りの時期に体験する終末期せん妄は、がんの進行により発症するため、回復する見込みはほとんどない。[18]精神医学的にはせん妄と称されても、本来臨床現場でよく遭遇するせん妄とはまた異なる考え方が必要で、回復しないことを前提に治療や家族ケアを行う必要がある。[19]終末期せん妄には、興奮、幻覚が特徴的な、過活動型と眠っている時間が長い、意識の抑制された低活動型に区別される。臨床的にはその両者が時間と共にみられる混合型が多い。[20]そして、意識が抑制される、終末期せん妄とは亡くなる自然な過程の一部である。[19]よって、興奮が目立つ過活動型せん妄への対処が必要である。[19]
気道分泌過剰(死前喘鳴)は、「死が迫った患者において聞かれる、呼吸に伴う不快な音」で、唾液や気道に蓄積した分泌物によっておこる。「意識が低下して、自分自身の唾液が飲み込めない」ことが関連すると言われている。その診断と、治療が重要となる。[21]死前喘鳴を観察した医療者が知っているかどうかにより、患者の苦痛が反映される。医療者が死前喘鳴の存在を知らなければ、不用意に喀痰吸引をくり返す結果となる。そして、吸引は看取りの時期にある患者に最も強い苦痛を与える。治療としては、抗コリン薬である、ブスコパン®、ハイスコ®が投与される。
看取りの時期には他にも様々な治療内容の変更が必要となる。(表3、表4)穏やかで苦痛がない看取りがケアと治療のゴールであることから、それまでに行ってきた治療、ケアの内容を見直す必要がある。
表3 看取りの時期にみられる主な症状[12]
・疼痛
・呼吸困難
・口渇
・せん妄(不穏)
・気道分泌過剰(死前喘鳴)
表4 看取りの時期に再検討する薬剤 [29](文献29より改変引用)
必要だが 投与経路の 1) 変更を考慮する薬剤 |
以前は必要だったが 中止を検討する薬剤 |
すでに必要ではなく 中止が勧められる薬剤 |
鎮痛薬 制吐薬 鎮静薬(鎮静を目的とした薬剤, もしくは睡眠の確保を目的とした薬剤) 抗不安薬 |
ステロイド剤 2) ホルモン補充療法 血糖降下薬 利尿薬 抗不整脈薬 抗けいれん薬 |
降圧薬 抗うつ薬 下剤 抗潰瘍薬 抗凝固薬 長期投与の抗生物質 鉄剤 ビタミン剤 |
1)経口投与から,持続静注,持続皮下注射への変更など
2)ステロイド剤は徐々に減量すること。特に高用量のステロイド剤を脳浮腫に対して投与しているときには注意が必要である
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