« 植物園の人々 | トップページ | あとどのくらい生きられるか? (予後予測) »

2013年9月16日 (月)

看取りのケアの現状と課題 はじめに、ACP

はじめに

看取りのケアは海外では、end-of-life careとかterminal careと呼ばれ、緩和ケアの一分野である。 看取りのケアと緩和ケアのちがいは対象の患者の病期である。両者のちがいに明確な定義はないが、がん患者を例にすると、前者は特に死亡前1ヶ月程度から死亡までの患者で、後者は全ての病期の患者を対象としていると思われる。

 

現時点で日本の緩和ケアは、主にがん患者を対象として提供されており、海外のように心不全、腎不全、呼吸不全、神経難病といった慢性疾患の患者を対象とした緩和ケアはまだ十分な体制が整っているとはいえない。 また現在、日本ではがんによる死亡がもっとも多く、がん患者の病院での死亡が大多数である。[1,2] 従って本稿では、がん患者を対象とした、死亡前1ヶ月から死亡までの看取りのケアを様々な観点から検討する。

 

これからどう過ごすか? (アドバンスドケアプランニング、Advance care planning; ACP)

家族A 「今の主人の状態で、これからどこで過ごすのが一番よいのでしょうか。」

医師A 「ご主人は、これからどこで過ごしたいと考えていらっしゃいますか。」

 

がん患者の病院での看取りが多い背景には、抗がん治療(手術、化学療法、放射線療法)を主体として行ってきたがん医療の特徴が反映されている可能性が高い。ケアよりも治療を、症状よりも病態に注目してきた研究、教育、臨床の歴史の結果とも言える。[3]しかし近年の緩和ケアの普及で、患者自身が「これからどの様な治療を受けたいか」を考える援助を行う、アドバンスドケアプランニングの研究がいくつか行われている。[4,5]

 

最近の研究では、口頭での説明だけでなく、ビデオを活用して患者により分かりやすく、予め今後の治療内容を考えるきっかけを与える内容が紹介されている。心肺蘇生、機械式人工呼吸、症状緩和に関する内容が含まれている。日本での現状は、患者自身が正しい知識を教育され、心肺蘇生を行わないDo not resuscitate (DNR)オーダーを医療者に伝えることはそれほど多くはない。現実は、死亡の直前に家族とのみ話しあいDNRオーダーを確認することも多いのではないだろうか。また「がん患者に心肺蘇生はかわいそう」、「がん患者の心肺蘇生は無意味だ」という一方的な医療者の観念、死生観の押しつけも望ましくない。患者にとって必要な時期に、患者の心の準備を確かめながら、今後の治療や生活の相談を始める取り組みがもっと行われるべきである。日本においても、アドバンスドケアプランニングの充実を目的とした研究が望まれる。

 

またどこで生活したいか、暮らしていきたいか、最期を迎えたいかという療養場所に関する話し合いも重要である。療養場所は、在宅、療養施設、病院、ホスピス・緩和ケア病棟に大きく分類される。患者の居住する地域によって、療養の場所や受けられる医療の差がある現状だが、緩和ケアを普及することでより患者、家族の個別性と考えを重視し、看取りの場所が選択できるように国内でも研究が進行中である。[2]

|

« 植物園の人々 | トップページ | あとどのくらい生きられるか? (予後予測) »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 看取りのケアの現状と課題 はじめに、ACP:

« 植物園の人々 | トップページ | あとどのくらい生きられるか? (予後予測) »