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2013年6月28日 (金)

あなたの緩和ケアはどうしてうまくいかないのか 前編

20130628_181909緩和ケアって何をしてくれるところなの? 」

以前の病院に勤務していたときにも何度も患者から聞かれました。「緩和ケアって結局何なの?何をしてくれるところなの?」と。一言でうまく答えることもできない質問でしたが、何なのか、どう説明したらよいのか、ずっと考えを巡らせていました。また、「緩和ケアチームあります」の案内を病棟に貼っておいても、「あの、私この緩和ケアチームという方々の診察を一度受けてみたいのですが」と実際に尋ねてこられる方はいらっしゃいませんでした。昨年、ある患者会の勉強会で講義の時間を持ちました。その時にも結局緩和ケアを皆さんに伝えようと思っても、言葉はよどみうまく皆さんに伝えることができず、不十分な内容になってしまいました。

自分が10年以上も取り組んできた緩和ケアを、どうして自分の言葉で相手に伝えられないのか、最近はそのことをずっと考えていました。一体、緩和ケアって何なのでしょうか。

もちろん、Wikipediaのような説明や、WHOの声明のような「借り物の言葉」で説明することは僕にだってできます。例えば、「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者およびその家族の、QOLを改善するアプローチである」とか、「疾病に伴う苦しみを和らげたりするものであり、痛みその他の身体的問題、 心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと治療を行う」といった緩和ケアの説明です。どなたの講義や、講演を聴いても思うのですが、こういう「借り物の言葉」で何かを語ると、まず聴衆は、一瞬で悟ります。この人は自分の身で体験したことを話しているのではなく、頭の表層で記憶したことを話していると。「借り物の言葉」で語るときの違和感はすぐに人に悟られるのです。話し手が自分は心から緩和ケアを理解しているつもりでも、話している言葉に身体がないことに人は敏感です。それは非専門職の患者、家族は医療職よりもより敏感であると僕は自分自身の経験から感じています。だから、自分の日常でも「緩和ケア」をうまく話せないのです。

お腹が痛いから内科、歯が痛いから歯科、怪我をしたので外科、足をくじいたので整形外科、かゆみがあるので皮膚科という患者のニーズに対応するやりかたでは、緩和ケアの提供はうまくいきません。緩和ケアの看板を外来にあげて、ただ患者が来るのを待っていても誰も来ません。それは緩和ケアが嫌われているからではありません。患者さんにとっては自分と緩和ケアの関係が分からないからです。そして、関係が分からないだけではなく、緩和ケアに対しては悪いイメージで捉えられ、「緩和ケアに紹介されるということは、自分がもう先が長くないということだ」「緩和ケアに通っている患者は自分とは違いもっと具合の悪い患者だ」と思っています。

そんな自分にとっての緩和ケアを探している最中に、最近のキーワード、早期からの緩和ケア(early palliative care)という言葉に出会いました。これは最近NEJMに掲載された論文でとても有名な言葉となりました。1) この論文では、肺癌の患者さんに定期的な緩和ケアを提供すると、QOLが向上し、うつが軽減される。無用な化学療法の中止ができそして、この論文の引用されるほとんどの記事が、この論文で判明した、緩和ケアを適切に受けると延命されるという結果でした。

僕は、繰り返し引用される生存曲線よりも、一番はっとしたのは、どういう実践を緩和ケアと呼んでいるかという事です。彼らの考えている緩和ケアとは何なのか、「借り物の言葉」ではない、臨床的な臨場感が、この論文の価値が世の中に広く認められる結果になったのだと悟りました。タイトルの「早期からの緩和ケア」を見たときには、ああまた新しい造語を作り自分たちの活動を誇張しているのかなと思いましたが、中味を読みまた実践の動画を見てはっとしました。

この論文の一番の肝は、定期的に一定時間外来でカウンセリングをすることだと思います。この研究では定期的にカウンセリングに来てもらう群と、用事があったら来てもらう群に分けているのです。そして、定期的にカウンセリングに来ていた群に、様々な面で良い効果があったという研究でした。この研究を見て最初にはっとしたのは、患者のニーズに関わらず、定期的に診察を予定することがまず緩和ケアを提供する上で重要なのだと思ったことでした。つまり、緩和ケアの提供を患者のニーズに委ねては、緩和ケアは提供できないということでした。緩和ケアの外来やチーム活動は「患者、家族にとってニーズがあってはじめて対応する」所にしないことが、緩和ケアのよい介入だいうことです。まるで緩和ケアの押し売りです。


最初の一歩は患者の意志であることには間違いありません。しかし、緩和ケアを紹介する側も、何か目的や患者の得られる益を患者に説明してから紹介しようとしても、よい緩和ケアの介入はできないかもしれません。今、僕のクリニックにも色んな方が紹介されてきます。皆さん、「家の近くにかかりつけの医者がいる方がいいって言われました」と話し半信半疑の顔をしていらっしゃいます。でも、この方法が一番よい紹介の仕方なのかもしれません。


(つづく)


1)Temel, JS, Greer, JA, Muzikansky, A, Gallagher, ER, Admane, S, Jackson, VA, Dahlin, CM, Blinderman, CD, Jacobsen, J, Pirl, WF, Billings, JA, Lynch, TJ. Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. N Engl J Med 2010;363(8):733-42.)

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