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2013年6月 7日 (金)

ガイドラインに書けなかったこと その2 がん患者の腹水

腹水

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・がん患者の腹水 最新の知見

腹部膨満感の原因となる腹水には主に、がん性腹膜炎に合併する腹水と、肝硬変に合併する腹水の2つがある。がん性腹膜炎に合併する腹水は、腹部の理学所見(触診、波動の有無の確認)に加えて、必ず腹部超音波での確認が必要である(図1-3)。腹囲が増大していても、腹膜播種による腫瘤が、無数に腸間膜や腹膜に増殖している場合があるからである(図1)。このような状況の時には、腹水の量は少なく、腹水に対する対処を行っても、腹部膨満感はほとんど改善しない。また卵巣癌の患者に発生する腹部の巨大腫瘤内に漿液成分を認めることもある(図3)。このような腫瘤の内溶液をドレナージすることは、出血の合併症があること、腫瘍の容積を減少させない可能性もあることから実施しない。

腹水に対する対処としては、利尿薬、腹水穿刺、腹腔静脈シャント、腹水濾過濃縮再静注法がある[5]。現在までに、腹水の治療の実施、無実施や、薬物同士の効果、腹水穿刺の方法を比較検討した臨床試験は皆無である。しかし、ほとんどの医師が臨床現場で腹水の処置を行っているのが現状である。 経験的には、肝硬変に合併した腹水には利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド)、がん性腹膜炎に合併した腹水には腹水穿刺を実施することが多い。今までの臨床研究では、腹水穿刺を繰り返し実施する時の苦痛を軽減する目的で、カテーテル留置を実施した報告が多い[5]。腹腔静脈シャントは、状態の悪化した緩和ケア領域の患者では合併症のリスクから実施しにくい。また、腹水濾過濃縮再静注法については、日本以外の発表がほとんどなく、腹水穿刺を繰り返す方法と、QOL(quality of life)や生命予後、コストの観点から比較検討した研究がない。

臨床的に良く実施される腹水穿刺の時間や排液量には標準的な方法はなく、過去の報告では、30-90分から24時間持続排液まで幅があり、0.8-15L(平均 5.3L、中央値 4.9L)の腹水穿刺で症状は軽快している[5]。報告では、輸液、血液製剤の投与を実施しなくても、5L以下の腹水穿刺では合併症が発生しなかった[6]。腹水にカテーテル留置を実施した研究については表1にまとめた[7]。

また過剰な輸液は、腹水が増量する原因となり得るので、食欲が低下している場合にも、浮腫や腹水、胸水を合併する患者には、1日1000ml以下に輸液を制限する方がよい。

現実と知識の乖離。その限界

腹水に関しては、臨床の現場でも言い伝え (anecdotal story) が多い分野で、「腹水は抜けば抜くほど衰弱する。できるだけ抜かない方が良い」、「腹水の中にはタンパク質が多く含まれている。抜けば抜くほど身体の栄養がなくなる」、「腹水を繰り返し抜くと、早く亡くなる」という、経験者の偏よった観察から伝承されている臨床観が蔓延している。また、そのような言い伝えを裏付ける根拠も、反対に明確な指針を提唱できるほどの根拠もない。腹水に関する研究のほとんどは、「どのように腹水を除去すれば臨床的に効果的か」という観点からなされたものがほとんどで、患者のQOLや当事者の体験、実際の予後との関連を検証した臨床研究はほとんどない。「腹水がないと食事が摂れる」、「腹水がないと移動が楽になる」「痛みや呼吸困難が緩和した」というポジティブな体験と[7]、「(特に在宅医療の現場では)腹水を繰り返し抜くことは、手間が掛かる」という医療者の業務的な思惑と、前述の根拠のない言い伝えが、腹水を巡る問題を複雑にしている。

5) Becker G, Galandi D, Blum HE. Malignant ascites: systematic review and guideline for treatment. Eur J Cancer. 2006 Mar;42(5):589-97.

6) Stephenson J, Gilbert J. The development of clinical guidelines on paracentesis for ascites related to malignancy. Palliat Med. 2002 May;16(3):213-8.

7) Day R, Mitchell T, Keen A, Perkins P. The experiences of patients with ascites

secondary to cancer: A qualitative study. Palliat Med. 2013 Apr 4. [Online first]

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