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2013年6月 7日 (金)

ガイドラインに書けなかったこと その1 がん患者の便秘

まえがき

某所に書いた腹部膨満感についての原稿を、3つに分けてお知らせします。いつも書きますが、こうして検索可能で無料の状態で保管しないと、結局僕の小さな頭で考えたことも、誰の役にも立たなくなってしまいます。僕の原稿は人の受け売りです。つまり多くの人達の意志の集合です。僕の名前や、原稿を読んで欲しいから広めたり、オープンアクセスにするのではありません。僕自身からの誰かに対するメッセージと贈与で、また過去の研究者への敬意なんです。
2011年に緩和医療学会から「がん患者の消化器症状に緩和に関するガイドライン」を多くの信頼できる同僚とまとめました。過去の研究の知見から、提言できることをまとめましたが、経験と私見からの内容は当然エビデンスベースドのガイドラインなので省略しました。でも実際は経験から考えていることの方が、ずっと役に立つ時もあります。また2010年以降の研究の成果もある程度まとまり、その内容も書きました。
ちなみにイラストは、緩和ケア研修OPTIM studyの手伝いをした時に作成した、私の妹がフランスで描いたものです。このイラストを描くために毎晩Skypeで妹と打ち合わせて作成していました。リアルでもどこか安心できて、うそっぽくない。そんなイラストになるよう何度も何度も描き直しをしてもらいました。そんな家内工業の成果です。
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ガイドラインに書けなかったこと

腹部膨満感は、「お腹の張った感じ」「お腹がふくれた感じ」という自覚的な訴えの症状である。他覚的にも腹囲が増大した状態であることがほとんどである。緩和ケアの臨床現場ではよく遭遇する症状であるにも関わらず、主要な症状としての系統的な記述がほとんどない。

腹部膨満感は、がん患者に多く、悪心・嘔吐、呼吸困難を合併しやすく[1]、その原因として主に便秘、腹水、消化管閉塞がある。それぞれの原因に応じた対処と、現実と知見とのギャップ、限界について述べる。

便秘

・がん患者の便秘 最新の知見

がん患者に限らず、様々な疾患において便秘は合併しやすく、ほとんどの患者が下剤を併用しており、半数以上は2剤以上の併用である[2]。便秘は、腹痛、腹部膨満感、食欲不振、悪心、嘔吐とさらに別の症状の引き金となりうる。

緩和ケア領域において、便秘にどう対処するかは、通常の消化器疾患のアプローチとは相違点が多く[2]、病歴、理学所見(腹部触診、直腸診)は重要だが、腹部レントゲン所見と便秘の自覚的な重症度が全く相関しないこと[3]、併用する薬剤の影響を強く受けること[4]が指摘されている。腹部レントゲンでは、便秘の重症度の判定よりも、消化管閉塞との鑑別を主目的とする。

特にがん患者では、癌性疼痛に処方されるオピオイドの投与量が多いほど便秘も強く、また抗コリン作用のある薬も便秘と関連している[4]。

便秘の治療として、腸管運動が低下している場合には刺激性下剤を、便の水分がなく固い場合には、浸透圧下剤が投与される。薬物療法の指針には、緩和ケアが必要な患者に特異的な指針についてほとんど言及されていない。長期臥床で、排便に十分な腹圧がなく、トイレへの移動も困難な患者にとっては、薬物療法だけでは排便は得られないことも度々である。浣腸や摘便といった経肛門的な処置が必要となる。衰弱した患者にとっては、便秘に対する処置が最も侵襲的になりかねないため、腹部のマッサージや温罨といった非薬物療法も組み合わせていく必要がある。

・現実と知識の乖離。その限界

原疾患に関わらず、患者が衰弱する過程において、寝たきりになり、食事を徐々に食べなくなることは自然なことである。このような自然な姿で亡くなりゆく過程の中で、便秘の治療をいつまで、どのように実施するかは、医学的な観点からも看護的な観点からも明確な指針は提唱されていない。衰弱した患者に実施する便秘の治療が、患者の体験できるどのような生活の質(QOL)の改善に寄与できるのかを科学的に検証した研究はほとんどない。

衰弱した患者にとって、便秘薬を内服し続けること、経肛門的な処置を日常的に受け続けることを、当事者のQOLの観点から評価し続けることが現時点での最善な対応と考えられる。亡くなるまで便を出し続けることを目的化し、ケアの質や患者のQOL低下に単純に置き換えてはならない。

1) Tsai JS, Wu CH, Chiu TY, Chen CY. Significance of symptom clustering in palliative care of advanced cancer patients. J Pain Symptom Manage. 2010 Apr;39(4):655-62.

2) Clark K, Currow DC. Assessing constipation in palliative care within a gastroenterology framework. Palliat Med. 2012 Sep;26(6):834-41.

3)  Nagaviroj K, Yong WC, Fassbender K, Zhu G, Oneschuk D. Comparison of theConstipation Assessment Scale and plain abdominal radiography in the assessment of constipation in advanced cancer patients. J Pain Symptom Manage. 2011 Aug;42(2):222-8.

4) Clark K, Lam LT, Agar M, Chye R, Currow DC. The impact of opioids, anticholinergic medications and disease progression on the prescription of laxatives in hospitalized palliative care patients: a retrospective analysis. Palliat Med. 2010 Jun;24(4):410-8.

 

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