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2013年5月25日 (土)

がんの痛みを征圧する その2 がん疼痛治療の基本

2.がん疼痛の基本的な対応

Q1.鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して、有効な治療は何か?

推奨[1]

1.痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。

2.アセトアミノフェン または NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs) を使用する。 (強い推奨)

3.NSAIDsが投与されているがん患者において、消化性潰瘍の予防をする。(強い推奨)

解説

痛みのあるがん患者を診察したとき、まず原因の評価と痛みの評価をガイドラインは求めている。がん患者にみられる痛み(表2)と、疼痛の種類を(表3)それぞれの患者において検討する。

表2 がん患者にみられる痛み (文献1 p.20)

1 がんによる痛み

内臓痛

体性痛(骨転移痛、筋膜の圧迫、浸潤、炎症による痛み)

神経障害性疼痛

脊髄圧迫症候群

腕神経叢浸潤症候群

腰仙部神経叢浸潤症候群・悪性腸腰筋症候群

2 がん治療による痛み

術後痛症候群

開胸術後疼痛症候群

乳房切除後疼痛症候群

化学療法後神経障害性疼痛

放射線照射後疼痛症候群

3  がん・がん治療と直接関連のない痛み

もともと患者が有していた疾患による痛み(脊柱管狭窄症など)

新しく合併した疾患による痛み(帯状疱疹など)

がんにより二次的に生じた痛み(廃用症候群による筋肉痛など)

表3 疼痛の種類 (文献1 p14 改変)

種類

特徴

侵害受容性疼痛

体性痛

皮膚、骨、関節、筋肉、結合組織などの部位より発生。

局在が明瞭な持続痛が体動に伴って増悪する。

骨転移

術後の創部痛

筋膜や筋骨格の炎症に伴う筋攣縮

内臓痛

管腔臓器、臓器皮膜、臓器局所や周囲組織から発生。

局在が不明瞭な深く押されるような痛み。

消化管閉塞に伴う腹痛

肝臓腫瘍による肝皮膜の伸展

膵臓がんに伴う上腹部痛、背部痛

神経障害性疼痛

末梢神経、脊髄神経、視床、大脳などの痛みの伝達路の、神経が圧迫、断裂された時に発生。

知覚低下、知覚異常を伴うこともあり、しびれ、電撃痛になることもある。

腕神経叢浸潤による、上肢のしびれを伴う痛み

脊椎転移による、背部、下肢のしびれを伴う痛み

化学療法後の手・足のしびれ、痛み

痛みの強さだけではなく、その原因を加味した治療が求められる。例えば、がん患者に合併した帯状疱疹の痛みであれば、がん疼痛の薬物療法は優先されない。

次に、痛みの評価については、日常生活への影響、痛みのパターン、痛みの強さ、部位、経過、性状などを確認する。

薬物療法のポイントとして、腎機能障害、消化性潰瘍、出血傾向があれば、アセトアミノフェンを投与する。日本で使用可能なNSAIDsを含む、質の高い比較研究がないため、どのNSAIDsを投与するかについての推奨はない。海外のガイドラインではNSAIDsの鎮痛効果よりも、副作用を懸念し投与は強く推奨されない。またNSAIDsを投与する場合には、プロスタグランジン製剤、プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬の併用し消化性潰瘍の予防が推奨されている。

Q2 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない、または中等度以上の痛みのある患者に対して、有効な治療は何か?

推奨[1]

1. オピオイドを使用する。(強い推奨)

2.患者の状態(可能な投与経路、合併症、併存症状、痛みの強さなど)からここの患者に合わせたオピオイドを選択する。(強い推奨)

3.オピオイドの開始に伴って生じる可能性のある嘔気・嘔吐および便秘の対策を行う。(強い推奨)

4.オピオイドを開始する時には、非オピオイド鎮痛薬と併用する。(弱い推奨)

解説

アセトアミノフェンまたはNSAIDs投与中の患者に痛みがある場合には、まず痛みの原因を再評価する。合併症の痛みではなく、がん疼痛が痛みの原因あることが判明した場合には、オピオイドの投与を行う。オピオイドにはいわゆるWHO step IIの弱オピオイドと、step IIIの強オピオイドがある。日本のガイドラインでは、弱オピオイド、強オピオイドを含めて、どのオピオイドを第一選択薬とするかは推奨していない。欧州のガイドラインでは、コデイン、トラマドール、少量のオキシコドン、少量のモルヒネをWHO step IIとして位置づけているが、エビデンスの不足から、step IIの投与は弱い推奨となっている。またエビデンスの根拠はないが、「長年使い慣れている」という理由から、WHO step IIIの薬剤としてモルヒネがエビデンスよりも専門家の合意を優先し、第一選択薬と推奨されている。オキシコドン、フェンタニル、モルヒネといった強オピオイドのうちどのオピオイドが優れているかを直接比較し実証した臨床研究はない。そのため、オピオイドを選択する根拠として、投与経路(経口投与を優先)、合併症(腎障害があればモルヒネとコデインは避ける)、併存する症状(強い便秘ならフェンタニルを、呼吸困難があればモルヒネを)、痛みの強さ(強度の痛みに、弱オピオイドやフェンタニル貼付剤を第一選択としない)があげられる。また、NCCNのガイドラインでは、フェンタニル貼付剤は、オピオイド治療により痛みが安定している場合の代替薬と位置づけられ、EAPCのガイドラインでは、経皮オピオイド(フェンタニル、ブプレノルフィン)は、経口投与のオピオイドの代替薬で、内服ができない患者に投与すると述べられている。

オピオイドの投与を開始する時、便秘、嘔気・嘔吐、眠気の副作用が出現する可能性がある。従来の治療マニュアルでは、オピオイドの開始と共に、下剤、制吐薬の併用が明記されていた。しかし、オピオイドの開始と下剤や制吐薬の併用が、患者の副作用を軽減するという臨床研究が全くないため、現時点では副作用予防の推奨が困難である。日本のガイドラインでは、エビデンスレベルは非常に低いが、ガイドラインの作成に関わった専門家の合意により、副作用予防を強く推奨している。

Q3 オピオイドが投与されても十分な鎮痛効果が得られない痛みのある患者に対して、有効な治療は何か?

推奨

A.持続痛が緩和されていない場合 パターン3,4

1. 非オピオイド鎮痛薬を併用する。(強い推奨)

2.オピオイドの定期投与量を増量する。(強い推奨)

3.十分に増量しても鎮痛効果がみられない、または痛みがあるにも関わらず副作用のためにオピオイドが増量できない時は、他のオピオイドに変更する。(強い推奨)

B.突出痛が緩和されていない場合 パターン 2 (臨床的にはほとんどこのケース)

1.オピオイドのレスキュー・ドーズを投与する。(強い推奨)

解説

がんの進展により、がん疼痛の患者の痛みは経過と共に悪化することがほとんどである。オピオイドが投与されても十分な鎮痛効果が得られない痛みには、持続痛と突出痛があり、痛みのパターン(図1)から鑑別可能である。それぞれに対応が異なる。

図1 痛みのパターン (文献1 p18、解説は筆者)

002

アセトアミノフェンやNSAIDsと強オピオイドの併用が、痛みをより軽減する複数の臨床研究がある。日本のガイドラインでは併用を強く推奨しているが、EAPCのガイドラインではNSAIDsの副作用を避けるため、根拠とするエビデンスは同じ研究だが弱い推奨となっている。

原則として、持続痛が緩和されていない場合には、オピオイドの定時投与量の30-50%を増量する。増量の間隔は、速放性製剤、持続静注・持続皮下注では24時間、徐放性製剤では48時間、フェンタニル貼付剤では72時間を原則とする。オピオイドの急速な増量は、過量投与による呼吸抑制や意識低下と言った重篤な副作用が発生する可能性があるからである。

さらに一つのオピオイドを投与中に増量しても、十分な鎮痛効果が得られない場合には、オピオイドの耐性を考慮する。その場合には、他のオピオイドに変更することで鎮痛できることがある。(例; フェンタニルからモルヒネに変更、モルヒネ・フェンタニルからメサドンに変更)

  突出痛(breakthrough/episodic pain) は、がん疼痛の患者のほとんどに発生する、短い時間で出現する強い痛みで、持続痛の一過性増悪と考えられている。突出痛にはサブタイプがあり、予測できる突出痛、予測できない突出痛、定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)に分類される。オピオイド治療を行う上で、突出痛の対応は臨床的には、きわめて重要である。定時投与のオピオイドに加えて、突出痛に対して、経口投与では1日投与量の10-20%の速放性製剤を、持続静注・持続皮下注の場合には1時間量を急速投与する。

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