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2013年5月25日 (土)

がんの痛みを征圧する その1 今がん疼痛のガイドラインはどうなっているのか

某所に原稿を書きました。皆さんで共有した方がよいと思い、再編集してこちらにも掲載しました。

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がんの痛みに苦しんでいる間は、自立した生活を送ることも、ましてや人生を振り返ることも、毎日を感謝して送ることも、家族と言葉を交わし合うこともできません。
しかし、がんの痛みが緩和されると、患者さんは深く悩むことも増えてきます。痛みに苦しんでいる時には、考えることもできなかった患者さんも、これからの不安や、今の生活の困窮、家族への負担感を深く悩むことになっていきます。がんの痛みがなくなることで、次の痛みが出てきます。痛みの緩和は次の痛みの入り口です。そして、そんな痛みの次には、また新たな苦しみが待っています。それでも、医療者は次々に遭遇する痛みと苦しみを目の当たりにし、聞き届けて、対処していく忍耐強さと寛容さを持たなくてはなりません。
全ての苦しみが昇華することはないのかもしれません。それでもせめて、がんの痛み、身体の痛みは、必ず緩和できなくては、がん診療を担うことはできないと僕は考えています。もしも、患者さんの間近にいる医療者自身が対応できないのであれば、対応できる誰かに引き合わせる人脈と、苦しみに対応する仕組みを作る努力が必要です。
がんの治療の基本と、国内外のガイドラインの状況について解説します。

1.国内外のガイドライン

がん疼痛の診療ガイドラインは、痛みの強さに応じてオピオイドを含む鎮痛薬を使用する、いわゆる3ステップラダーが有名な、 WHOが1996年に発表したものが最初である。当時の世界的ながん疼痛に対する治療の不備を重大な人類的問題と考えていたWHOは、わずかなエビデンスと世界各国の専門家の合意により、がん疼痛のガイドラインを作成した。このガイドラインは、「Cancer Pain Relief(がん疼痛からの解放)」というタイトルの通り世界中の臨床家に対する強いメッセージを含む一種の宣言となった。

その後、WHOガイドラインの臨床的な検証や、新たなオピオイドの開発と共に、様々な臨床研究が実施され、日本、米国、欧州の学会や団体から新たなガイドラインが発表されている(表1)。

表1 最近のガイドライン [1,2,4]

名称

公表年

出典

がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010年版

2010

日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会(編): がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010年版、 金原出版、2010.

緩和医療学会のホームページでも無償で公表されている。

Use of opioid analgesics in the treatment of cancer pain: evidence-based recommendations from the EAPC.

2012

Use of opioid analgesics in the treatment of cancer pain: evidence-based recommendations from the EAPC. Lancet Oncol. 2012 Feb;13(2):e58-68.

Webで公表(無償でメンバー登録しアクセスできる)

NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Adult cancer pain.

2013

Webで公表(無償でメンバー登録しアクセスできる)

特に、 日本緩和医療学会[1]とEAPC(European Association of Palliative Care)[2]から発表されたガイドラインは、エビデンスに基づいた知見を元に専門家で合意された推奨(ステートメント)で構成されている。

緩和医療の分野は、日常診療の臨床疑問に対応する臨床研究が乏しく、まだ確固たるガイドラインの作成に必要な十分なエビデンスが不足している。さらに、特にオピオイドの臨床研究は、出版バイアスが大きく、新薬を開発した製薬会社がスポンサーの臨床研究も多く、臨床疑問に密接に関連する例えばオピオイド同士の治療効果を直接比較した臨床研究も少ない[2]。加えて、緩和医療の臨床研究が少ない背景として、全身状態の悪化した患者を対象とする臨床研究の倫理的な問題や、多施設共同研究を管理する組織の不在、また研究費の不足がある。特にエビデンスレベルの高い、プラセボを対照薬とした無作為化比較試験の実施は甚だ倫理的問題が大きく、実施は終末期がん患者を対象とする限り現実的ではない。

がん疼痛に関しては、メタアナリシスや無作為化比較試験が高く評価される、エビデンスレベルを中心に推奨度を決定する通常の方法論では、ガイドラインの作成が困難である。またそれぞれの臨床試験が、日常の診療の臨床疑問と直接関連がないことも多く、このような方法論に関する問題を解決するために、日本とEAPCのガイドラインでは推奨の強さを、強い、弱いの2段階に設定し、研究デザインの厳密性によるエビデンスレベルは、推奨の強さを決定する一つの因子である。

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