« 今どきの在宅医療14 在宅療養の患者さんは長生き? 「経験の檻」 | トップページ | 今どきの在宅医療16 終末期がんの症状緩和 その2 »

2013年4月24日 (水)

今どきの在宅医療15 終末期がんの症状緩和 その1

とある出版社から、終末期がん患者の看取りの時期に関する原稿を依頼されました。特に在宅医療の観点から考えた、具体的な対応方法について執筆しましたのでその一部を改編し掲載いたします。

Istock_000002026953small
看取りの時期とは概ね予後が1-2週間程度の時期で、Liverpool Care Pathwayの表1を参考とする。
 
表1 亡くなることを診断する所見 [3]。
下記の2項目以上を満たし、かつ予後が1週間前後と予測される
・寝たきり状態
・半昏睡/意識低下
・ごく少量の水分しか口にできない
・錠剤の内服ができない
看取りの時期になってからよくみられる症状は、疼痛、呼吸困難、せん妄(不穏)、気道分泌過剰(死前喘鳴)である[5]。まずこの4つの治療対応に関しては必ず熟知して欲しい。具体的な治療方法は表にまとめた。

2 苦痛緩和の具体的な方法(持続皮下注射) 

症状

方法

コメント

疼痛

塩酸モルヒネ注 10mg (1A)/ 日

フェンタニル注 0.1mg (1A)/日

トラマール注** 100mg (1A)/日

・疼痛が中等度以上ならモルヒネで開始。

・高齢者、腎機能障害のある患者ならフェンタニルで開始。

・麻薬の使用ができないとき、または軽度から中等度の疼痛ならトラマールで開始。

呼吸困難

塩酸モルヒネ注* 5-10mg (0.5-1A)/ 日

トラマール注* 50-100mg (0.5-1A)/日

・ 全身状態が悪いときには、モルヒネを5mg以下の少量から開始する。

・ 麻薬の使用ができないときは、トラマールで開始。

・ 呼吸困難が強いときには、抗不安薬としてドルミカムを併用。

・ 気道分泌過剰(死前喘鳴)の合併、痰が多いときには、分泌抑制薬としてハイスコを併用。

せん妄(不穏)

セレネース注 5-10mg (1-2A)/日

ドルミカム注* 5-10mg (0.5-1A)/日

・ 比較的会話ができるならセレネースで開始。

・ 不穏が強ければドルミカムで開始。

気道分泌過剰 (死前喘鳴)

ブスコパン注* 20-40mg(1-2A)/日

ハイスコ注* 0.5-1mg(1-2A)/日

・眠気がある方がよいならハイスコで開始。

* 適応外使用の薬品 ** トラマールは筋注のみ適応

疼痛や呼吸困難にはオピオイド、モルヒネが投与されることが多い。
過去の研究から、最後の3日間に中等度から強度の痛みが半数の患者が経験したことが遺族調査で分かっている[6]。適切な疼痛治療、緩和医療を受けている患者には、亡くなるまでほとんど苦痛がないとも報告されている[7]。
一方で、意識が低下しつつある患者の疼痛や苦痛をどのように医療者が評価するかという課題もあり、表情、仕草から苦痛を評価する方法が提案されている[8]。疼痛に対する治療は、看取りの時期に入ると内服薬での治療が困難となること以外は、通常のがん性疼痛に対する治療と同じと考えて良い。
 
呼吸困難に対しては、酸素投与が行われることもある。しかし、看取りの時期の患者は、筋力低下、るいそうから、胸郭の呼吸運動が低下し、その結果として酸素飽和度が低下する。またこのような状況の患者は、呼吸困難を自覚し苦しんでいないことも多い。従って、苦痛のない患者の、酸素飽和度を上昇させる目的のみに酸素投与を行うことはすすめられない。
せん妄(不穏)は、終末期がん患者の85%とほとんどの患者でみられる[9]。せん妄とは、身体疾患が原因となる、精神状態の変化を指す。外科手術後や、集中治療室で状態の悪い患者が一過性の不穏状態となることが、臨床的には一般的である。そして、身体の状態が回復するにつれて、せん妄も回復することがほとんどである。(可逆)しかし、がん患者が看取りの時期に体験する終末期せん妄は、がんの進行により発症するため、回復する見込みはほとんどない[9]。
終末期せん妄は、回復しないことを前提に治療や家族ケアを行う必要がある[10]。終末期せん妄には、興奮、幻覚が特徴的な、過活動型と眠っている時間が長い、意識の抑制され、うとうとと眠っている時間が長くなる低活動型に区別される。臨床的にはその両者が時間と共にみられる混合型が多い[11]。低活動型のせん妄は、看取りに向かう臨死期の患者にとっては、平穏に経過していくように周囲からはみえるため、治療対象となることはまずない。したがって、終末期せん妄は、過活動せん妄を回避し低活動型せん妄の状態に誘導する、つまり「穏やかさ」を取り戻す治療が目標となる。
気道分泌過剰(死前喘鳴)は、「死が迫った患者において聞かれる、呼吸に伴う不快な音」で、唾液や気道に蓄積した分泌物によっておこる。「意識が低下して、自分自身の唾液が飲み込めない」ことが関連すると言われている。その診断と、治療が重要となる[12]。死前喘鳴を観察した医療者が知っているかどうかにより、患者の苦痛が反映される。医療者が死前喘鳴の存在を知らなければ、不用意に喀痰吸引をくり返す結果となる。そして、吸引は看取りの時期にある患者に最も強い苦痛を与える。治療としては、抗コリン薬である、ブスコパン®、ハイスコ®(注射薬)、またアトロピン点眼薬を代替薬として投与できる[13]。

引用文献
3. Seow H, Barbera L, Sutradhar R, et al. Trajectory of performance status and symptom scores forpatients with cancer during the last six months of life. J Clin Oncol. 2011;29(9):1151-8.
4. Ellershaw J, Ward C. Care of the dying patient: the last hours or days of life. BMJ 326:30-34,2003. 5. Hallenbeck J. Palliative care in the final days of life: "they were expecting it at any time". JAMA. 293:2265-2271,2005.
6.The Study to Understand Prognoses and Preferences for Outcomes and Risks of Treatments (SUPPORT). A controlled trial to improve care for seriously ill hospitalized patients. JAMA. 274:1591-1598,1995.
7. Lichter I, Hunt E. The last 48 hours of life. J Palliat Care. 6:7-15,1990.
8. Herr K, Bjoro K, Decker S. Tools for assessment of pain in nonverbal olderadults with dementia: a state-of-the-science review. J Pain Symptom Manage. 31:170-192,2006.
9. Breitbart W, Strout D. Delirium in the terminally ill. Clin Geriatr Med. 16:357-372,2000.
10.  Morita T, Akechi T, Ikenaga M, et al. Terminal delirium: recommendations from bereaved families' experiences. J Pain Symptom Manage. 34:579-589,2007.
11. Bruera E, Bush SH, Willey J, et al. Impact of delirium and recall on the level of distress in patients with advanced cancer and their family caregivers. Cancer. 115:2004-2012,2009.
12. Wee B, Hillier R. Interventions for noisy breathing in patients near to death. Cochrane Database Syst Rev 1, CD005177, 2008.
13. Shinjo, T, Okada, M, Atropine eyedrops for death rattle in a terminal cancer patient., J Palliat Med, 16, 2, 2013, 212-213

|

« 今どきの在宅医療14 在宅療養の患者さんは長生き? 「経験の檻」 | トップページ | 今どきの在宅医療16 終末期がんの症状緩和 その2 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今どきの在宅医療15 終末期がんの症状緩和 その1:

« 今どきの在宅医療14 在宅療養の患者さんは長生き? 「経験の檻」 | トップページ | 今どきの在宅医療16 終末期がんの症状緩和 その2 »