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2011年9月15日 (木)

病気で食べられない悩み

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「もう私主人に何を食べさせたら良いのかわからないの」
「あの時医者から胃瘻をと言われ、すすめられるまま親父に処置をお願いした。本当にこれでよかったのか」
「妻の最期に、無理に食事をさせようとしていた自分を思い出すと、何だか申し訳なくてなあ」
「親戚のすすめる○○という食品をな、随分高かったけど買い続けたんだ」
最近、食欲不振や食事に関する問題を、薬や栄養で応じるこたえる事に限界を感じます。寝たきりで、胃瘻をつけて長らく生活の質の低い状態で生き続けなくてはならない問題、栄養を投与しないことで生じる自責感。様々な問題は多くの葛藤を生み続けています。今自分が注目しているのは、食べられなくなることを、患者さん、家族はどう受け止め、どう僕らは(医療者は)対処するのかということです。また一番感じているのは、愛情の果てにぶつかってしまう患者さんと家族の関係がどうかよいものになるようにという事です。
人は食べられなくなり、命を終わる。これは医学以前の人類の太古からの宿命でしょう。栄養や医学は、この宿命とどうぶつかってしまうのでしょうか。そして、家族と医療者が患者を思うが故にい引き起こされるす悲劇とは、何でしょうか。
特定の食品や、薬、処置といった技術、そして「がんばらない」「食べれなくなったら自然に死ぬ」といった特定の信条 (belief) に、すがらない方法を僕らは探すことができるのでしょうか。
(以下は書きかけの原稿の一部です。きっと来年どこかで出版されます)
食に関する患者の苦悩
「こんなに食べられなくてどうしよう」「もう食べられなくなってくればだめだな」こんな患者のつぶやきを、がん医療に従事する医療者であれば何度も聞いてきたことと思う。[6]まず患者は、食欲不振に陥ったとき、食に関する苦悩を必ず体験する。患者は食欲不振を、すぐに満腹する(early satiety)、食欲のそのものの低下、食事への嫌悪感、食事をすること自体が苦痛であること、飲み込むこと、咬むことが難しいこととして、体験していた。[2]「いつも満腹している感じ」「食事をしようと思うとむかつきがある」「味がない」「食事を楽しむと言うより、仕方なく食べている」「家族が食べることを強要する」といった意見が聞かれた。[1,2]患者は食べる事への強迫感が強く、食欲が毎日変わり、無理をして食べ続けると言われている。[1]また「何としてでも食べなくては」という強迫感の生まれる具体的な理由として、患者には、自分の状態が悪い方向へ向かわないようにと願う気持ちと共に、自分を思い食事を作ってくれる家族に対して、何とか期待に応えようと無理をしても、がんのために食欲が落ちた身体では応えられないという苦悩がある。「折角作ってくれたんだから、頑張って食べないとな」「僕が食べると、妻が喜んでくれるんだ」といった声も聞かれる。一方で、最期の6ヶ月間に患者は空腹感をそれ程感じていないとも報告されている。[7]「食べられない」苦悩だけではなく、「食べなくてはならない」苦悩も存在するのが患者の体験である。
食に関する家族の苦悩
「どうやって食事を作ったら良いのかわからない」「(患者に)食べたいものを聞いても何も答えてくれない」「食べてくれないと死んでしまうのではないかと怖くなる」このように、家族もまた患者と同じく、もしくはそれ以上に苦悩している。過去の研究でも、料理を作る妻の方が、患者よりもより強い苦悩を感じていることが分かった。[1]食事を続けることが、生をつなぐこと。患者のために料理をする家族にとって、まず自分が病魔に抗うためにできる事は、食事で患者を力づけること。そして、その信条は「生きていくのには、食べることが一番大事」であるということである。[3]この信条はしばしば、病状の悪化に伴い身体活動が低下するのは、食事をきちんと食べていないからだという誤解につながり、食欲が落ちた患者に無理に食事を食べさせようとしてしまう行動につながる。また、患者が食事を食べないのは、自分の料理がまずい悪いからだという自責感を強めることもある。どのような料理をどう作ったら良いのか分からない、どうしたら患者が食べることができる料理が作れるかという悩みを相談できないと、さらに苦悩は高まり、患者の苦悩を上回ることは想像しやすい。[1]また、苦悩の内容として「毎日、患者が毎日食べたいものが変わる」「患者が自分の料理を食べてくれないと落ち込む」「とにかく食べてくれれば生きていてくれる」「患者が食べたいわけではないかもしれない、でも私は食べて欲しい」とも考えていた。[1]このように食に関する苦悩は、患者と家族の感情的な葛藤となる。[6]

食に関する医療者の苦悩
「食べられるようにする方法がない」「せめて自分にできる事は何かとを考えると、輸液を多くしてしまう」このように医療者は、自分の診療している目前の患者の状態が悪化したり、直接患者の苦悩を聞けば、何か自分の持つ知識や技量で事態を好転させたいと考えるであろう。その方法として、コルチコステロイドやメゲストロール、メトクロプラミドといった薬物療法で、一時期の食欲不振を改善する可能性はあるが、未だに現時点でも未だにどのような患者に有効なのかは不明で、かつ効果は期間限定である。[8]消化器がん患者に限らず、全ての進行がん患者、全ての疾患の患者の終末期には、 本質的に食事ができなくなる時は必ず訪れる。[2]つまり、亡くなるまでの自然な過程の一部として、食欲は必ずなくなる。これは医学の進歩では打破できない自然の摂理とも言える。そして医療者にとっての苦悩は、患者、家族に対して助言が難しく、また食欲不振を制御し食事の喜びを自分医療者自身の力で回復させることができない事が根源となる。輸液、中心静脈栄養とい言った経静脈栄養、経管栄養、胃瘻といった治療、また栄養学的見地からの食事、栄養管理は、多くの患者に有効な方法として、現代医療に定着している。[3]しかし、過度な治療や栄養管理が、患者のQOLをかえって低下するという矛盾も指摘されている。[6]医療者の苦悩という心理・社会的な側面から、この問題を俯瞰したとき、医療者は、単に患者を延命する目的で行っているといういうよりも、[6]患者、家族の食に関する苦悩に医療者の知識や技量で対応した結果ではないかとも考えられる。つまり、輸液や胃瘻で、患者や家族の苦悩を軽減しようと考えている可能性がある。
医療者ができる心理・社会的援助
患者、家族、医療者の食に関する苦悩にはどのような援助が可能なのか。患者と家族の葛藤を解決するには、どのような対処が望まれるのか。現在までに報告されているエキスパートオピニオンについて表1にまとめた。また、食欲低下や体重減少のある患者に対する,リーフレットと共に、食習慣、変化する身体への理解と対処法を教育する、心理・社会的な介入も開発中である。[9]
特定の食品や方法、また食事に関する意見、信条は、一時的に患者や家族の苦悩を軽減するかもしれない。しかし、「一体何が起こっているの」「これからどうなるの」「何が助けになるの」という問いに対しては、心理・社会的援助を含む様々アプローチを同時に行う事が医療者に求められる。[6]
表1 患者に何を食べたら良いのかというエキスパートオピニオンに基づく助言。[3]
身体的
・ カロリーを増やす
・ タンパク質を増やす
・ 少ない量で回数を増やす
・ 栄養学的見地からの教育、カウンセリングを行う
・ 補助栄養食品を使う
・ 高栄養の食品を使う
・ 調味料とタンパク質を減らす
・ 飲みものを減らす
・ 暑すぎず、冷たすぎない室温くらいの食べ物
・ ポリフェノールを含む食品(タマネギなど)
・ 食欲を刺激するためにアルコール
・ 症状を緩和する食品 (便秘に対するプルーンジュース)
心理・社会的
・ 食べたいものを食べる
・ 楽しんで食べる
・ 食べられそうなものを食べる
・ 食事制限をやめる(健康食品など)
・ 「食べなくてはならない」と考えない
・ 食べられなければ、水分だけでもよい
・ 食べやすいものを食べる
・ どうするのがよいか、患者、家族を交えて考える
・ 食べる量を増やそうとしない
・ 栄養補助食品を避ける
1) Strasser F, Binswanger J, Cerny T, et al. Fighting a losing battle: eating-related distress of men with advanced cancer and their female partners. A mixed-methods study. Palliat Med 21(2),129-137, 2007
2) Hopkinson J, Corner J. Helping patients with advanced cancer live with concerns about eating: a challenge for palliative care professionals. J Pain Symptom Manage 31(4), 295-305, 2006
3) Hopkinson JB, Okamoto I, Addington-Hall JM. What to eat when off treatment and living with involuntary weight loss and cancer: a systematic search and narrative review. Support Care Cancer 19(1), 1-17, 2011
4) Addington-Hall J, McCarthy M. Dying from cancer: results of a national population-based investigation. Palliat Med 9(4), 295-305, 1995
5) Dewys WD, Begg C, Lavin PT, et al. Prognostic effect of weight loss prior to chemotherapy in cancer patients. Eastern Cooperative Oncology Group. Am J Med 69(4), 491-197, 1980
6) Moynihan T, Kelly DG, Fisch MJ. To feed or not to feed: is that the right question? J Clin Oncol 23(25), 6256-6259, 2005
7) McCann RM, Hall WJ, Groth-Juncker A: Comfort care for terminally ill patients: The appropriate use of nutrition and hydration. JAMA 272(16), 1263-1266, 1994
8) Yavuzsen T, Davis MP, Walsh D, et al. Systematic review of the treatment of cancer-associated anorexia and weight loss. J Clin Oncol 23(33), 8500-8511, 2005
9) Hopkinson JB, Fenlon DR, Okamoto I, et al. The deliverability, acceptability, and perceived effect of the Macmillan approach to weight loss and eating difficulties: a phase II,
cluster-randomized, exploratory trial of a psychosocial intervention for weight-
and eating-related distress in people with advanced cancer. J Pain Symptom
Manage. 40(5):684-95, 2010

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