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2011年2月 1日 (火)

最期の苦しみ 「がんの最期は苦しむのでしょう?」

今日初めてお会いした方。「がんの最期は苦しむのでしょう?」初対面でこのように尋ねられるとどのように答えるか迷う。でもその方が私の意見を求めていらっしゃる。「多くの方が苦しみません。」と答えました。「毎日手当てしていれば苦しむ方は少ないです。」

「みんな苦しむって言ってます」とその方。「普通の人達の話が一番広まらないのかもしれません。」8割の方は苦しまず穏やかです。2割の方が苦しむことがあります。その時にはその手当をします。この根拠は終末期の鎮静率[1]。がんの最期の苦しみを緩和する方法として、鎮静剤の投与があります。これは「眠らせる」ことを目的にしているので、安楽死とは全く異なります。苦しみなく眠ることで穏やかな時間を作る究極の手段です。その手段を選択する手順は複数の医療者で判断しないと危険です。
終末期の鎮静の話しをすると安楽死と混同されて、ブラックジャックのドクターキリコと勘違いされてしまう。でも鎮静を始めるまでみんなで考えて考えて、あらゆる方法で対処して、言葉をかけて、家族と力を合わせてそれでも、患者さんが苦しいとき。医療者は努力してためらって、ためらって、考えて。それを経て初めて鎮静を決めます。それまでの患者さんとの語らい、家族との対話全てがあって初めて鎮静を決めます。そして鎮静は、眠る手伝いをするのみです。本来がんの方々は最期は苦しみません。眠っている方がほとんどです。ですから鎮静とは「自然に亡くなる道のりから外れて迷子になってしまった方を元の道のりに案内するため」の治療だと考えています。

3.1%-51%と鎮静率は大きく異なります。ヨーロッパでは10%前後です。鎮静率が高いと言うことは何か他に手段がある可能性があると考えられます。きちんと鎮静することで呼吸状態は安定するので決して早くに亡くなる手伝いをするわけではありません。

安楽死が合法なオランダでも安楽死を手伝う医師の苦悩が報告されています。また安楽死を望む患者さんの苦痛も甚大です。彼らの苦痛に「もう一度考えてみましょう」と話す余地がないこともあります。そのオランダでも鎮静が増加しています[2]。

この終末期の鎮静と安楽死の相違は今までも議論が続いています。鎮静が「ゆっくりの安楽死」との議論も続いています。しかし臨床家にとっては、倫理的な議論、定義よりも目の前の患者さんに「なにかする」ことが重要で求められています。

僕の出会った患者さんは、「最期は眠るように逝かしてね」と家族の前で唐突に僕に話されました。僕は、この患者さんの手を握って約束しました。「あなたが苦しんでいれば、ちゃんと助けます。今日話してくれたことは忘れませんから」

1) Claessens P, Menten J, Schotsmans P, Broeckaert B. Palliative sedation: a
review of the research literature. J Pain Symptom Manage. 2008 Sep;36(3):310-33.
2)Rietjens J, van Delden J, Onwuteaka-Philipsen B, Buiting H, van der Maas P,
van der Heide A. Continuous deep sedation for patients nearing death in the
Netherlands: descriptive study. BMJ. 2008 Apr 12;336(7648):810-3.

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