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2011年2月25日 (金)

「国の方針、厚生労働省の方針なんでしょ?」

僕は週に1回これから緩和ケア病棟に入院したいと考える数組の患者さんやご家族と外来でお会いします。当然患者さんはがんの方ばかりです。丁度今週もあるご家族がいらっしゃいました。患者さんは残念ながら紹介元の病院で入院中とのこと、その日はお会いすることができませんでした。緩和ケアやホスピスは、患者さん、ご家族にとってはイヤなところです。紹介されただけでも自分の命の短さを痛感させられるつらい機会になることがほとんどです。それでも、紹介され多くの方々がいらっしゃいます。
お会いする前に紹介状を見ると、定型句かもしれませんが大抵は「患者さん、ご家族の希望で貴院に入院したいとのこと、何卒よろしくお願いいたします。」と書かれています。そこで、まずお会いした方々には聞きます。「ここに『皆さんの希望で』と書かれていますが、皆さんはご自身でこちらにいらっしゃることをお決めになったのですか」と。すると、多くの方はこう答えます。「いえ、最初は病院の人達から言われました。ホスピスを考えて下さいって。それからホスピスのリストを見せられ、その中からこの病院を選びました。」他にはどんな説明を受けましたか?と聞くとまた多くの人達はこう答えます。

「今いる病院は、急性期病院なので治療の終わった方は退院して下さいと言われました。」
「国や厚生労働省の方針で長い入院はできないと言われました。」

この言葉をご家族から聞く度に考えさせられます。今、病院で何が起きているのか。
「急性期病院」とか「国や厚生労働省の方針」という言葉を遣う医療者心には何が隠れているのでしょうか。その言葉を発してでも患者さん、ご家族を転院させたい言葉の裏には何があるのでしょうか。

国や厚生労働省は決して患者さんの入院を短くすべし、在宅医療を推進すべしと断言しているわけではないと僕は考えています。まず、診療保険点数の本にはそのようなことは書かれていません。書かれているのは、入院日数に応じて1日あたりの入院費用の加算が変わることです。入院が長くなれば、1日あたりの入院費用が安くなるようになっています。そして、在宅医療を行う診療所、それを支援する病院に費用が加算されるようになっています。医療費の配分を定めているのです。
さらにいうなら、ホスピス、緩和ケア病棟で化学療法、放射線療法をしてはならぬと言及してあるものはないですし、がん、AIDSの患者さん以外を入院させてはならぬとも書いてありません。(注)

国や厚生労働省の方針というのは、こういう医療費の配分からどういうメッセージを医療者が受け取るかです。そのメッセージが、全国的に足並みをそろえて、「急性期病院には長く入院できません」「治療の終わった方は退院して下さい」になるのです。つまり、「急性期病院」とか「国や厚生労働省の方針」という言葉に最も反映している考えは、国の方針でも役所の方針でもなく、各病院の経営ということだと僕は思います。もちろん、限りあるベッドをどうやりくりするのか、連日多くの患者さんが押し寄せる病院として、公共財である病院と医療をどう配分するのかという大所からの考えはよくよく理解しています。それでも、患者さん、ご家族と現場で向き合う医療者が、何の迷いもなく、盲目的に「急性期病院」とか「国や厚生労働省の方針」という言葉を発することにとても大きな危険を感じています。

医師である自分は経営に明るいとは言えません。また多くの院長も医師出身ですので、経営を専門的に学ぶ機会は少ないと思います。病院の事務長、事務方も深い考察のある経営ができるのかというとどうでしょうか。きめ細かな収益、コスト分析から、どのような患者をどうマネジメントするのかという経営の指南を病院ではなかなか聞けません。いつも聞かれるのは「もっと入院日数を短く」とか「もっと外来患者を増やして」とか「ベッドの稼働率を上げて」という結果が先に立つ経営マネジメントでその中味は空虚です。どのような診療をすると損益が大きいとか、一日薬価をいくら未満にすると収益がどれくらいという話しには決してなりません。

そのようなやや未熟な経営マネジメントの影響で、本来マネジメントが目的とする目標の達成の洗練ではなく、結果目標のみを論ずる。この点で、病院経営は随分と一般通念から随分と後逸していないでしょうか。このような前時代的な未熟な経営マネジメントが「急性期病院」とか「国や厚生労働省の方針」という言葉へと連結していくのであればそれは、患者さん、ご家族にとって医療を提供する側が自分自身が使う言葉を見直す必要があると思います。

私も緩和ケアの専門の医師です。毎日の病院での実践から、ほとんどのがんの患者さん、ご家族には緩和ケアが必要だと常々考えています。それはがんだけに留まらずあらゆる病気で必要です。じゃあ、緩和ケアって何をするところかと言うことを、患者さん、ご家族はすぐには分からない。当然多くの医療者も簡単に説明できないので、「もう治療がないので緩和ケアへ」とか「残り少ない時間を有意義に過ごすには緩和ケアが必要です」とか説明することになります。この説明は決して全て間違っていませんが、こんな風に言われた患者さん、ご家族はどう思うのでしょうか。「死ぬ準備をするために、ホスピスの外来を紹介された」と考えるでしょう。そんな患者さん、ご家族にまずホスピスに患者さんは生活を手伝いに来てもらっているんだという話から始めます。

そして、ホスピスや緩和ケアを紹介したいと考える医療者の皆さんには考えて欲しいのです。その患者さんやご家族がホスピスへ入院し緩和ケアを受けた方がよいと親身になって相手の人生を考えて助言しているのか、空虚な「急性期病院」とか「国や厚生労働省の方針」という言葉を並べて彼らが自ずから、自分たちの元を離れるのを願うのかを。

注 緩和ケア病棟入院料は、平成22年改定では、1日に月3,780点(¥37,800)です。その1-3割を負担することとなります。ベッド差額料は各病院が設定します。しかし全てのベッドのうち半分はベッド差額料を設定することはできません。つまり無料です。がん、後天性免疫不全症候群以外の患者さんが緩和ケア病棟へ入院した場合、一般病棟入院基本料のうち特別入院基本料として575点(¥5,750)となります。つまり病院の収益は1/7となります。

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