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2011年1月 3日 (月)

せん妄や認知症の患者さんとの対話

ホスピス、緩和ケア病棟(以下ホスピス)ではどんな診療が毎日行われていると周りの医療者は考えているのか。ホスピスで毎日を過ごす患者は、ホスピス以外で過ごす患者と何がちがうと周りの医療者は考えているのか。
私もこの8年近くをホスピスで過ごしているといつの間にか、ちがいに気がつかなくなりました。幸いなことに当院では一般病棟で緩和ケアチームとして診療を行うこともあるため、ホスピスで過ごす患者と一般病棟で過ごす患者との違いが何であるのかある程度推測することができます。

まず患者はどこで療養していても起こっている状況にはそれ程変わらない事がよくわかりました。大きな違いは、患者に起こっていることを医療者がどう考えて、そして医療者が考えたことをどう患者や家族に伝えているのかと言うことです。患者に起きていることが変わらないと言うことは、症状や病期によって変化する毎日の様子が変わらないと言うことです。つまりホスピスの患者は特別痛みを予防できたり、せん妄を予防できたり、また自分の足で歩くことができる時間が、ホスピス以外で療養する患者と比べて長いわけではないと言うことです。

そして大きな違いとは、患者の毎日を詳細に診察することで、ほんの小さな変化が今後どのような事になるのか推測し、これからどんなことが起こりうるかを、医療者の間で共有し、すぐに患者や家族と共有することです。日常診療で一番長い時間をかけて丁寧に対応や説明をする事は、「認知機能の低下(せん妄)」と「看取り」に関することです。

せん妄や認知症といった、認知機能の低下した患者を診療、看護することはとても難しいことです。なぜなら、患者が感じている本当のことを言葉では分かりあえないこともあるからです。

そして、この認知機能の低下は身体の病気と共に悪化の一途をたどります。それはホスピスでもホスピス以外の病院でも全く変わりません。なぜなら、この認知機能の低下とは「自然な死への過程」そのものだからです。

患者へのケアや治療と共に、家族へのケアを重視することがホスピスで最も特徴的な対処の一つです。「治らない」せん妄、「治らない」認知症であっても、ありのままの患者の姿や状況をどのように周囲がどう考えるかは変えることが出来るかもしれません。ですから家族がどう考えを変えるか援助できる医療者の役割はとても大きいと思います。

そして、せん妄や認知症の患者と言葉ではない情を通い合わせる新しい会話を生み出すこと、これが家族と医療者ができる喪失の中の創造ではないでしょうか。

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