ホスピス、緩和ケア病棟で最初にお会いしたとき
よく初めてお会いした方に聞かれること、説明することをお伝え致します。他の施設にはあてはまらないかもしれません。予めご了承ください。いつも初めてお会いする方には2時間程度の時間を費やします。ご本人がいらっしゃらない場合は、ご家族とお話しします。
ご本人がいらっしゃれば、ご本人の考えを深く聞くことが出来ます。それまでの治療の葛藤や今の迷い、悩みをお聞きします。時には、ホスピスに紹介されたことを怒っていらっしゃる方もあります。ご家族だけいらっしゃった時には、それまでのご苦労や悩みをお聞きします。ご本人がいらっしゃると話しにくいこともよくお話しされます。また後日個別にご家族だけにお話を聞くこともあります。それは決して、ご本人に内緒で何かを打ち合わせているわけではありません。
ご本人には、ご本人の、ご家族には、ご家族の悩みがあるんだとつくづく感じます。それを一緒に話せないこともあると言うことです。紹介を不快に思ったり、怒っている方々には、「今日はまずこの聞き慣れない「緩和ケア」や「ホスピス」がどんなものか説明させてくれませんか」と話します。
まず、この病棟では、「生活」をするところだとお話しします。「痛みをとる、苦痛を減らす、治療をする」それは全て正しいのですが、まず「生活」と「暮らし」を手伝う所なんだと話します。「生活」に困った時、この病棟へ入院してください。それはあなた自身が決めて下さいと話します。医師や看護師が見立てて検査や診察で入院を決めるわけではない。あなた自身が「生活」を通じて、これではやっていけないと思った時それが入院の時ですと話します。
病気の状態、家庭の事情、気持ちなどなど全てがその方の「生活」に影響します。ですから、苦しんで入院するということだけではありません。「あなた自身が一番気がついている、生活の困り具合」で入院するかどうか決めるのですと話します。
「痛みが強くても」「独りで悩んでつらくなっても」「誰も食事を作ってくれなくても」「しばらく家から離れたいと思っても」「今の治療を少し休みたいと思っても」すべて、生活に困っているんですから入院してもらってよいですよと話します。
そして、退院するのもあなた自身が決めて下さいと話します。「退院せずにずっといたい」と思うのもあなた自身の選択。「家に帰る」というのもあなた自身の選択。あなたがどうしたいかを一緒に考えて、それを応援しますとお話しします。
ホスピスでは「死を待つ」という人たちもいますが、それは「ホスピスで死を迎えたい」とご本人が決めればそうなります。「一度入院すれば退院できない」という人たちもいますが、「ホスピスでずっと入院していたい」と決めればそうなります。
入院して、まだ力がある方や、退屈した方には一度家に帰ってみませんかとお話しすることもあります。でもそれは一緒に決めて、帰る手伝いをしますし、その後どう家で暮らし、困った時はどうするのか一緒に考えてからです。また入院したいと思えばまた引き受けます。
家に帰ることが出来ないのであれば、入院を続けて一緒に過ごしましょう。毎日の生活を手伝います。私たちは、病棟に「閉じ込める」ことも「追い出す」こともしませんよ。ですから、入院も退院も随分皆さん色々です。自分が今、どうしたらよいか分からなくなったらまた一緒に考えましょう。
病棟での治療は、「あなた自身がきちんと効果が分かる、体験できる治療」をします。病気にとって正しい治療でも、あなた自身がきちんと「ああ、この治療でよくなったな」と気がつくことがなければ採り入れることはできません。(=QOLの向上)
ですから、抗がん剤の治療は採り入れにくいのです。抗がん剤治療を受けて、今までに「食事がおいしくなった、体が軽くなった、寝込んでいたが歩けるようになった」という体験をもった方はとても少ないです。あなたはどうですか?
もしも、抗がん剤治療ができる体力がついたり、抗がん剤治療をもう一度受けたいと考えるなら、検査をして一緒に考えましょう。その時には、他の病院や、他の病棟で治療を受けることを、僕が先方の先生と相談します。
心肺蘇生について考えたことありますか?よく言われている延命治療とか尊厳死とか言われていることです。これも僕らは、具合の悪い状態の延長で心臓や停まったり、呼吸が止まった時は僕らの手や、機械で治療をはじめることはありません。
なぜかというと、僕らの手や、機械が、患者さんに新しい力を生み出すこがないからです。また患者さんが、その治療を「よい治療をうけた」と体験できないだろうと考えるからです。蘇生は患者さんをすぐ直前の状態に戻すことです。その状態がもしも意識がない状態ならどうでしょう。
直前までお元気に歩いている方が、心臓の病気や、事故で倒れてしまった時、それは心肺蘇生をするのです。なぜなら、直前までお元気だったからです。僕らもその時の状態で、どうするか考えているのです。患者さんが生きる力が残っていると思う時、それは心肺蘇生をするかもしれません。
色んな事をいっぺんに話したので、覚えきれないかもしれませんね。最後に大事なことを話します。ホスピス・緩和ケア病棟は「あなたが生きるのを手伝うところ」です。「あなたが生活に困った時、手伝うところ」なんです。
例え、病状や身体を変えることが出来なくても、あなたは、自分の生活する環境を変えることが出来ます。僕達の病棟を選ぶかどうか決めるのはあなたです。僕らは選ばれる側なのですよ。ご縁があってここで生活することになれば、毎日持っている知恵と技術とをあなたに捧げます。
今日は長い話しを聞いてくださってありがとうございました。(必ず握手します)何か話したいこと、聞きたいことはもうありませんか?(一番最近こういう話しをしていました。)
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